山下洋輔 / 寿限無 Vol.1

小山彰太作の1曲目「円周率」は、3.14159…に音符を割り当てたと容易に想像できた。本作Vol.1はライナーノーツがなかったが、Vol.2には山下洋輔自身による解説があった。「パイの数列3.14159…を40桁まで音程に移し換えた手法。1=C, 2=D, 8=オクターブC, 9=オクターブDとなる。黒鍵が出てこないことになるが、かえってシンプルだが印象的なメロディーが発見されている」。

しかし、これはちょっと怪しい。40桁は「3.14159 26535 89793 23846 26433 83279 50288 41971」であり、32桁目に0が出てくるのである。0がBか、それともオクターブEなのかの説明がない。テーマを何度か追いかけてみたところ、0の箇所でブレイク。「0=無」だったのである。そして、無限と続く数字に対して、寿限無を思いついた。いや、寿限無という題材が先に浮かび、円周率へ辿り着いたのかもしれない。寿限無を聴くと、明らかにテーマが以下のようになっている。

じゅげむ じゅげむ ごこうのすりきれ
かいじゃりすいぎょの すいぎょうまつ
うんらいまつ ふうらいまつ
くうねるところにすむところ
やぶらこうじのぶらこうじ
ぱいぽ ぱいぽ ぱいぽのしゅーりんがん
しゅーりんがんのぐーりんだい
ぐーりんだいのぽんぽこぴーの
ぽんぽこなーの
ちょうきゅうめいのちょうすけ

1. 円周率
2. Duo Dance
3. So, What's New
4. One For T
5. Chattering
6. K's Lullaby
7. Nimfa Star
8. 寿限無

武田和命 - tenor saxophone
山下洋輔 - piano
小山彰太 - drums
国仲勝男 - bass

録音 1981年2月17 & 18日 / 東京・日本電子工学院スタジオ

山下洋輔 / A Tribute To Mal Waldron

そもそも、1980年6月に、なぜマル・ウォルドロンに捧げるアルバムを作ったのか。油井正一氏のライナーノーツでは「山下洋輔はずっと昔からマル・ウォルドロンにひそかな共感と敬意を抱いていたのである」とあっさりと書いているだけ。それって、ヨースケだけの話ではないだろう。

この年のヨーロッパ楽旅の最後に、ヨースケのソロを録音する契約だったらしいが、プロデューサーのホルスト・ウェーバーが国仲勝男のベースを入れたいと契約変更を申し出たらしい。3曲目のMal Is Back In Townはヨースケ、残り3曲はマルの作品。ヨースケはソロでの構想を描いていたはずなので、本来の曲数はもっと多かったはずだ。もしくは、トリオに合ったマルの作品を改めて探した可能性もある。所有するヨースケのアルバムを調べると、ピアノ・ベース・ドラムによるトリオでの録音はこの時が初めて。これが正しいとすれば、マルはどうでもよく「ヨースケ、ついにピアノ・ベース・ドラムのトリオに初挑戦!!」のようなキャッチコピーになるのだ。

1. Trane's Soul Eyes
2. One-Upmanship
3. Mal Is Back In Town
4. Minoat

山下洋輔 - piano
国仲勝男 - bass
小山彰太 - drums

Recorded on June 17 & 18, 1980 at Studio Bauer, Ludwigsburg.

山下洋輔 / Hot Menu

果たして、山下トリオはニューヨークで受け入れられたのか?このアルバムを聴く限りでは、ブーイングもなければ、熱狂的な拍手もなかったように思える。「こんな演奏をピアノ、ドラム、サックスのトリオでするなんて凄いぞ!でも、何の曲なんだ?」というのが、ライブを聴きに来た人の感想だったのではないだろうか。日本人なら、「うさぎのダンス」や「砂山」をモチーフにした構成ということで、ヤマト魂ならぬヤマシタ魂を素直に感じるのだが。

ヨーロッパで絶賛された山下トリオは、アメリカ・ニューヨークでも通じるのかという問いに答える企画であったと思うが、結果は不戦敗。いや、不戦勝であったかもしれない。つまり、彼らが戦う土俵、もしくは四角いリングが用意されていなかったということだ。ニューヨークにおいては、時代を先取りし過ぎたのかも知れない。調べた資料によると、このライブ録音の後、スタジオ録音は多数あるものの10年近くはニューヨークでライブ活動はしていない。ダンスを踊ったウサギは月に帰るしかなかったのか。

1. Introduction - Rabbit Dance (Usagi no Dance)
2. Mina's Second Theme
3. Sunayama

Yosuke Yamashita / 山下洋輔 - piano
Akira Sakata / 坂田明 - alto saxophone, alto clarinet
Shota Koyama / 小山彰太 - drums

Recorded on June 29, 1979 at JAZZ AT THE SYMPHONY, held as part of Newport Jazz Festival, NYC.