山下洋輔 / Chiasma

70年代半ば、山下トリオは西ドイツを中心にしてヨーロッパを制圧した、ジャズの世界において。ノックアウトされたいジャズを演じてくれるのが山下トリオだったのはわかるが、同類項のジャズメンはヨーロッパにいなかったのだろうか。時間軸を狂わすようなパフォーマンス。とんでもない磁力で観客を吸いよせていく。たった3人で。1975年6月6日、西ドイツのハイデルベルク・ジャズ・フェスティバルでのライブ演奏。

全6曲だが、Double HelixとHorse Tripは山下と森山によるデュオ、Nitaは山下のソロ、Introhachiは森山のソロという構成。アルバムタイトル、そして挿入曲のChiasma(キアズマ)は生物用語で、染色体間の交差のことらしい。山下の作品だが、坂田の命名ではないだろうか。森山は、この75年のヨーロッパツアーを最後に山下トリオを退団(75年大晦日の渋谷パンテオン「オールナイト・ジャズ・イン」がトリオでの最後の演奏)。Introhachiの森山のソロを聴くと、もの凄い破壊力である。なお、CDのジャケットはLPの裏面で使われていた写真に切り替わった。LPジャケットの写真も捨てがたいのだが。

1. Double Helix
2. Nita
3. Chiasma
4. Horse Trip
5. Introhachi
6. Hachi

山下洋輔 - piano
坂田明 - alto saxophone
森山威男 - drums

Recorded on June 6, 1975 at The Heidelberger Jazztage, West Germany.

山下洋輔 / Frozen Days

このアルバムの前後から、山下洋輔はジャズをこれまでとは違う土俵に持ち込んでいった。洋輔ワールドといってもいいだろう。その世界に入り込めるかどうかは、洋輔が油断した瞬間を見逃すしかない。このアルバムでは、3曲目のChiasmaのアタマに「隙(すき)」があり、坂田明の脇も甘い。ここが狙い目。

山下トリオがそこまで計算したとは思えないのだが、「隙」を演じることで聴き手が彼らと同化できるのだ。いわゆるフリージャズとの本質的な違いがここにある。放つか受け入れるか。Frozen Daysと題されたこのアルバム。「凍りついた日々」とでも訳そうか。まさか、録音から46年後のコロナを予測していたとは思えないのだが。

1. Prophase
2. Double Helix
3. Chiasma
4. Interphase
5. Mitochondria

山下洋輔 - piano
坂田明 - alto saxophone
森山威男 - drums

Recorded on September 25, 27 & 28, 1974.

山下洋輔 / Clay

1974年6月、西ドイツ・メールスで行われた第3回ニュー・ジャズ・フェスティバルでのライブアルバム。LPのライナーノーツは竹田賢一氏が担当し、こんな解説をしている。

「山下トリオを高く評価していた油井正一氏や悠雅彦氏は、いつもスローで出て腹の探り合いをしながら緊張を高めるという定形化が唯一の弱点と指摘している。だが、カタストローフへ向かうエネルギー曲線が同じパターンを辿ること自体にしびれていた。熱狂していた映画・網走番外地シリーズ。刑務所から出た後の高倉健はいつものパターン。やくざ映画に感情移入することはなくなったが、山田洋次映画に出てくる高倉健は見たくない」。

これは、『幸福の黄色いハンカチ』を暗に示している。映画の公開は77年10月。レーベルenja(エンヤ)のディスコグラフィーを調べると、原盤は74年リリース。国内盤LPはライブから3年以上経過して発売されたのだろうか。ドイツ、エンヤ、ハンカチの3つのキーワードが今のところは結びつかない。それより、山下トリオの生年月日を確認するとこうなる。山下洋輔:1942年2月26日、坂田明:1945年2月21日、森山威男:1945年1月27日。つまり、30歳代に入った山下、30歳代を迎える坂田と森山。彼らはドイツの聴衆を完全にノックアウトした。遠いアジアの島国から来た30歳前後の若者に対して、ヤンヤの喝采。

1. Mina's Second Theme
2. Clay (Dedicated to Muhammad Ali)

Yosuke Yamashita - piano
Akira Sakata - clarinet, alto saxophone
Takeo Moriyama - drums

Recorded on June 2, 1974 at the open-air-III. New Jazz Festival in Moers, Germany.