Miles Davis / Miles In Tokyo

このアルバムを捉えた日本公演に関して、マイルス自身がしっかりと自叙伝②で語っている。観客がマイルスの演奏に満足した以上に、マイルスは日本に大満足だったのだ。本作は、当時の日本におけるジャズのポテンシャルを示したという意味で価値が高いと言えるのだろう。ちなみに、CD化でジャケットは変更され、LPよりもライブの雰囲気が出ている。以下は、マイルスの発言。

『1964年の7月、サム・リバースが入った新しいバンドでコンサートをするために、東京へ行った。初めての日本だった。〈中略〉日本はものすごく遠い国だったから、オレは飛行機の中でコカインと睡眠薬を飲み、それでも眠れなくて酒もガンガン飲んでいた。到着すると、大変な歓迎ぶりで驚いた。オレ達が飛行機を降りようとすると、出迎えの人々は「日本にようこそ!マイルス・デイビス!」とか叫んでいた。なのにオレときたら、そこら中に吐きまくる始末だった。だが、すばらしいことに、彼らはさっと薬を出して介抱してくれ、まるで王様のように扱ってくれた。本当に楽しくて、すばらしかった。あの日以来、日本の人々を愛しているし、尊敬もしている。ビューティフルな人々だ』。機内でコカインを飲める時代だったのだ。

1. Introduction by Teruo Isono
2. If I Were A Bell
3. My Funny Valentine
4. So What
5. Walkin'
6. All Of You
7. Go-Go (Theme and Announcement)

Miles Davis - trumpet
Sam Rivers - tenor saxophone
Herbie Hancock - piano
Ron Carter - bass
Tony Williams - drums

Recorded on July 14, 1964 at Sekai Jazz Festival, Koseinenkin Kaikan, Tokyo.

Miles Davis / Four & More

マイルスはアルバムQuiet Nightsをスタジオで録音した後、精力的にライブ活動を続けるようになった。その中でも最もスピード感と緊張感に溢れているのが本作である。マイルス自叙伝②に、その理由が明確に書かれている。テオ・マセロのやり方に対する反発。ノー・ギャラなら失敗もありだ。この2つが最高のライブアルバムを作り上げたのである。自叙伝を要約すると以下のようになる。

「クワイエット・ナイトを台なしにしたテオ・マセロに腹を立てていた。ミュージシャンは、常にライブでこそすごいと思っていたから、スタジオのやり方には、もういい加減飽きがきていたんだ。で、市民権登録運動の慈善コンサートにでることにした。黒人意識の革命が進み、市民権運動が盛り上がっている時代だった。コンサートは1964年2月のフィルハーモニック・ホール」。さらに、次のように続く。

「その夜のオレ達の演奏は、まさに天井をぶっ飛ばしてしまいそうな勢いだった。みんなが、本当に一人残らず全員が、ものすごい演奏をした。曲はほとんどがアップテンポだったが、ただの一度も狂わなかった。ジョージ・コールマンも、この夜が最高だった。慈善コンサートがノー・ギャラなのが気に喰わない奴もいた。話し合いは行ったり来たりしたが、結局、今度だけは演奏するということで、全員が落ち着いた。だから演奏が始まる時には、みんなカッカしていた。その怒りが火をつけて、バンドに緊張感が漲った。たぶんそれが、全員があんなにも力強い演奏をした理由だったんだろう」。

1. So What
2. Walkin'
3. Joshua / Go-Go
4. Four
5. Seven Steps To Heaven
6. There Is No Greater Love / Go-Go

Miles Davis - trumpet
George Coleman - tenor saxophone
Herbie Hancock - piano
Ron Carter - bass
Tony Williams - drums

Recorded on February 12, 1964 at Lincoln Center's Philharmonic Hall, NYC.

Miles Davis / My Funny Valentine

アルバムFour & Moreと同日の録音。フィルハーモニック・ホールで、1964年2月12日に行なわれた市民権登録運動の慈善コンサートのライブである。収録された演奏のイメージは、Four & Moreが「動」、本作My Funny Valentineが「静」。単純にVol.1 & Vol.2としなかったことに工夫が感じられるが、それなりの販売戦略があったようだ。

本作のリリースは1965年2月で、原番号はColumbia CL 2306である。一方のFour & Moreは66年1月(原番号2453)で、1年近くの間を空けている。何故に「静」を先に出して、1年後に「動」を出したのだろう。自分ならば、まず「動」でマイルスグループの圧倒的なパワーを示し、マーケットが落ち着いた(つまり、レビューが出尽くした)ところで、繊細さも持っているグループであることを提示したい。だが、プロデューサーのテオ・マセロは逆手を取った。恐らく、64年7月リリースの前作In Europeが「動」に近い内容だったので、次は「静」にしたと推察できるのだ。

1. My Funny Valentine
2. All Of You
3. Stella By Starlight
4. All Blues
5. I Thought About You

Miles Davis - trumpet
George Coleman - tenor saxophone
Herbie Hancock - piano
Ron Carter - bass
Tony Williams - drums

Recorded on February 12, 1964 at Lincoln Center's, Philharmonic Hall, NYC.