Bob Dylan / Modern Times

Modern Timesは2006年8月29日リリース。その前作"Love and Theft"は2001年9月11日のリリースで、同時多発テロが起きた日。つまり、Modern Timesには、テロに対するディランのメッセージがどこかに含まれていると考えたい。その答えの1つが、1曲目のThunder On The Mountainで登場する。歌詞の中に「壁に書かれた災いの前兆」、「今の社会はどうして冷酷になってしまったのか」、「何か悪いことが起こりそうだ、飛行機は着陸させたほうがいい」、「懺悔はすでにしたんだ」という怒りや不安をちりばめている。タイトル「山の上で轟く雷鳴」は、天からの警告なのだ。

一方で、チャップリンの映画Modern Timesも意識したのだろう。機械文明と経済至上主義を批判した作品。Workingman's Blues #2では、「労働者の唄でも歌おうじゃないか、スーツを新調し、新妻も迎えた、米と豆だけで生きていけるさ」と再出発の意気込みを示す。この曲は2006年10月から18年10月までの間に、ライブで267回も歌っている。タイトルに#2と付けたのは、「労働者=歌手」としてのディラン自身の新たな旅立ちを感じる。そして、曲はBeyond The Horizonへと繋がっていく。地平線の向こうとは、そう簡単には到達できない場所。そんなイメージを抱かせる言葉。空想もしくは理想の世界を描く対比的な曲Over The Rainbowが、ふと浮かぶ。それに対して、Beyond The Horizonは現実に対峙した曲だ。

ラストのAin't Talkin'では、単語worldが何度も出てくる。this weary world of woe(苦悩に満ち疲れ果てた世界)、the world mysterious and vague(不思議で漠然とした世界)。最後にはIn the last outback, at the world's end(最後の奥地の中、世界の果てに)と。テロに対してディランが2つ目に漏らした言葉。世界の終わりを暗示しているようだ。

付属しているDVDはオマケのようなもの。だが、その中でアルバムWorld Gone Wrongのジャケットの場所が判明。ロンドン北部のカムデンという場所のレストラン。オマケながら、ディランはModern Times(今の時代)を彷徨い、言葉を探していることに気づかされるDVDでもある。

1. Thunder On The Mountain
2. Spirit On The Water
3. Rollin' And Tumblin'
4. When The Deal Goes Down
5. Someday Baby
6. Workingman's Blues #2
7. Beyond The Horizon
8. Nettie Moore
9. The Levee's Gonna Break
10. Ain't Talkin'

Bob Dylan - vocals, guitar, harmonica, piano
Denny Freeman - guitar
Tony Garnier - bass guitar, cello
Donnie Herron - steel guitar, violin, viola, mandolin
Stu Kimball - guitar
George G. Receli - drums, percussion

Recorded in February 2006.

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