Bob Dylan / Shadow Kingdom

商品解説から。〈もともとShadow Kingdomは2021年7月のストリーミング限定フィルム・イベントで公開するために、それら名曲群に新たな解釈を加えたうえで制作されたものだが、ついにオーディオ・フォーマットで聞けることとなった。ディラン自ら選び出した13曲と、クロージングで使われたインストゥルメンタル「シエラのテーマ」で構成されている〉。

では、ディランはどのような基準で、それら13曲を選択したのだろうか。ディランの公式サイトから、2023年8月3日時点でのライブ演奏回数とオリジナルアルバムを曲名の後に付加した。

1. When I Paint My Masterpiece / 319 / Greatest Hits Vol.2
2. Most Likely You Go Your Way And I'll Go Mine / 453 / Blonde On Blonde
3. Queen Jane Approximately / 76 / Highway 61 Revisited
4. I'll Be Your Baby Tonight / 582 / John Wesley Harding
5. Just Like Tom Thumb's Blues / 243 / Highway 61 Revisited
6. Tombstone Blues / 169 / Highway 61 Revisited
7. To Be Alone With You / 263 / Nashville Skyline
8. What Was It You Wanted / 22 / Oh Mercy
9. Forever Young / 493 / Planet Waves
10. Pledging My Time / 21 / Blonde On Blonde
11. The Wicked Messenger / 125 / John Wesley Harding
12. Watching The River Flow / 638 / Greatest Hits Vol.2
13. It's All Over Now, Baby Blue / 560 / Bringing It All Back Home

ここで2つの興味深い点が見つかった。まず、ベスト盤であるGreatest Hits Vol.2からWhen I Paint My MasterpieceとWatching The River Flowを選んだこと。どちらも、その後のスタジオ録音アルバムには収録されていない。ましてや、Watching ...は638回も演奏しているのに、ディランのどのライブアルバムにも収録されていないのだ。

もう1点は、ライブでは20回程度しか演奏していないWhat Was It You WantedとPledging My Timeに光を当てたことである。それぞれの最後の演奏日は、1995年4月6日と99年2月25日である。つまり、20年以上もディラン自身の中で眠っていた曲になる。

このようなことを考えると、続編・続々編の登場が期待できそうだ。だが、『ボブ・ディラン自伝』の続編が、いまだに出版されないので、期待外れになるかもしれない。

1. When I Paint My Masterpiece
2. Most Likely You Go Your Way And I'll Go Mine
3. Queen Jane Approximately
4. I'll Be Your Baby Tonight
5. Just Like Tom Thumb's Blues
6. Tombstone Blues
7. To Be Alone With You
8. What Was It You Wanted
9. Forever Young
10. Pledging My Time
11. The Wicked Messenger
12. Watching The River Flow
13. It's All Over Now, Baby Blue
14. Sierra's Theme

Bob Dylan - vocals, guitar, harmonica
Jeff Taylor - accordion
Greg Leisz - guitar, pedal steel guitar, mandolin
Tim Pierce - guitar
T-Bone Burnett - guitar
Ira Ingber - guitar
Don Was - upright bass
John Avila - electric bass
Doug Lacy - accordion
Steve Bartek - additional acoustic guitar

Recorded in 2021 at Village Recorder Studio, West Los Angeles.
Released on June 2, 2023.

Bob Dylan / Fragments - Time Out Of Mind Sessions (1996-1997)

商品解説からの抜粋。「1997年のアルバムTime Out Of Mind発売25周年記念企画となるブートレッグ・シリーズの第17集。97年盤はダニエル・ラノワをプロデューサーに起用。緻密で大胆なサウンドをバックにディランの巧みな表現力により傑作の一つにあげられる。この第17集は最新リミックスに加え、1996から97年のスタジオセッションのアウトテイクを中心に収録。オリジナルのサウンドは神秘的で謎めいたものだったが、リミックスではラノワが録音後に加えた効果や処理を削除。聴き手と演奏者の距離を可能なかぎり縮めることに主観が置かれている」。

この解説を読んで、ビートルズのアルバムLet It Be... Nakedを思い出した。ポール・マッカートニーは、オリジナルのリリースから約30年後に、無駄な装飾を取り去りリミックスして再リリースした。リミックスまでの期間はほぼ同じだが、ディラン自身がリミックスを希望したのだろうか。ネットで調べてみたが、その事実は確認できなかった。そこで、97年盤と第17集を一曲ずつ聴き比べてみた。効果音などを取り去ることで、明らかにディランの歌に力強さを感じだ。

97年盤では、ディランはこう語っている。「わたしのアルバムを聞く人のなかには、歌詞だけを取り上げてあれこれ批評する人がかなりいるようだが、この新作は音楽を聞いてほしいと思っている。詩を分析するのではなく、演奏そのものを聞いてほしい。頭で考えるよりも、心で感じてほしい」。演奏に重点を置いたアルバム作りだった訳だが、作り込み過ぎたとも言えるのである。

Disc 1
1. Love Sick
2. Dirt Road Blues
3. Standing In The Doorway
4. Million Miles
5. Tryin' To Get To Heaven
6. 'Til I Fell In Love With You
7. Not Dark Yet
8. Cold Irons Bound
9. Make You Feel My Love
10. Can't Wait
11. Highlands

Disc 2
1. The Water Is Wide
2. Red River Shore [version 1]
3. Dirt Road Blues [version 1]
4. Love Sick [version 1]
5. Tryin' To Get To Heaven [version 1]
6. Make You Feel My Love [take 1]
7. Can't Wait [version 1]
8. Mississippi [version 2]
9. Standing In The Doorway [version 2]
10. Not Dark Yet [version 1]
11. Cold Irons Bound
12. Highlands

Released on January 27, 2023.

Bob Dylan / ボブ・ディラン自伝

2005年7月29日発行 ソフトバンク・クリエイティブ株式会社 1800円。365ページ。第1章「初めの一歩」、第2章「失われた土地」、第3章「新しい夜明け」、第4章「オー・マーシー」、第5章「氷の川」。

第3章は、1970年夏に録音したアルバムNew Morningを示しているものの、レコーディングの経緯よりもウッドストックでの生活を中心に描いている。そして、本書の核となるのは第4章。ページ数が最も多く、1989年前半に録音したアルバムOh Mercyに関して詳細に記述している。ディランにとって、大きな変曲点となったアルバムであったことが分かる。このアルバムの制作に着手する前の心境を、ディランは次のように書いてる。

「わたしには歌をつくりたいという強い欲求がまったく湧いてこなかった。いずれにしても長いあいだ、歌をつくってはいなかった。わたしは曲づくりをやめていた。つくりたいという気持ちがなくなっていた。最近の何枚かのアルバムには、自作曲がさほど入っていない。ソングライターでいるということについて、わたしはこれ以上ないくらい無頓着でいた。すでにたくさんの曲をつくっており、それで充分だった。わたしは必要なことをすべてやって目標に到達したのであり、それ以上の目標を持っていなかった。〈中略〉ふたたび何かを書こうとは決して思わない。どちらにしても、歌はこれ以上必要なかった」。

しかし、Oh Mercyの1曲目に収められたPolitical Worldの詩が、突然として湧いてくる。それをきっかけにして、ディランは復活した。