山下洋輔 / Inner Space

1976年6月録音のヨースケとアデルハルト・ロイディンガーのデュオアルバムA Day In Munichに続く一枚。前作では、ヨースケに対抗してロイディンガーがベースを弾き過ぎていると感じたが、ここでは互いの言い分を認め合っている。初手合いでは自分の力を発揮することに集中し、2度目の対戦では相手の力をうまく利用しようとしている。結果、観戦する側としては、後者の方が断然面白い。

LPで聴いていた時は、レコードを回す、針を落とす、針を上げて盤を裏返す、という手間があるので、あまり感じなかったが、4曲35分でCDは終わってしまい物足りないのが残念。

1. Country Walk
2. Tight Pants
3. Soft Waltz
4. Green Wave

山下洋輔 - piano
Adlehard Roidinger - bass

Recorded on June 24, 1977 at Europe-Sound Studio, Offenbach.

山下洋輔 / Montreux Afterglow

1曲目はアルバート・アイラーのGhostsだが、ただのGhostsではない。坂田明が「赤とんぼ」を放り込み、さらには雄叫びまで飛び出してしまう。ジャズが持っている自由さ、奥深さ、そしてスピードと奔放さ。坂田の真骨頂がここにある。西洋人から見れば、このアルバムのジャケットはまさしく「ヤクザ」。演奏に腰を抜かし、ジャケットで恐れおののくだろう。1976年7月9日、日本のジャズがヨーロッパで勝利した日。この日を祭日にしよう!

ライナーノーツで野口久光氏がこう書いている。「山下洋輔トリオの演奏、山下洋輔の主張する音楽のすばらしさを適確に言葉で表すことはかなりむずかしいのだが、彼のもつオリジナリティ、演奏によって自分自身を百パーセント表現しているその姿勢がまず好きだ。彼の音楽はいうところのフリージャズの範疇に入るジャズだが、彼の音楽にはこの系列のジャズに多い難解さ、独善的なところがなく、きいていて爽快で心たのしくなる」。同感。「爽快ジャズ」なのだ。

1. Ghosts
2. Banslikana

Yosuke Yamashita / 山下洋輔 - piano
Akira Sakata / 坂田明 - alto saxophone, vocal
Koyama Shota / 小山彰太 - drums

Recorded in live on July 9, 1976 at Montreux Jazz Festival, Casino De Montreux, Switzerland.

山下洋輔 / Banslikana

このアルバムのプロデューサーであるホルスト・ウェーバーが、山下洋輔とセシル・テイラーのピアノトリオ演奏の相違点をLPのライナーノーツで述べている。「ヨースケ・ヤマシタ = 形態原理としての音楽的閉鎖性、セシル・テイラー = 表現の可能性としての音楽的自由およびフォルム」。しかし、自分の感覚としては全く逆だ。ヨースケには突き抜け感があり、テイラーには聴き手を遮るようなある種の壁を感じる。この受け止め方の違いは、どうしようもない。西洋と東洋の違いだろうか。

CDのライナーノーツでは、工藤由美氏が「自由と抑制、緊張と解放、大胆にして繊細、伝統と先進性。そういったものがぶつかり溶け合いながら、聞き手をカタルシスの極みへと導いていく」と。あまりにも抽象的な解説で、このアルバムの本質を掘り下げているとは思えない。

このアルバムは、成功でもあり失敗でもあったと思う。なぜに、A Night In TunisiaやAutumn Leavesといった、あまりにもスタンダード過ぎるスタンダード曲を入れたのだろう。つまり、聴き手が落ち着く場所を作ったということなのだ。ピアノソロで勝負に賭けるヨースケに甘さがあったということになる。ジャズも山下洋輔も知らない人に、ジャケットを見せたら「この人、どんな罪を?」と聞かれてもおかしくない。

1. A Night In Tunisia
2. Stella
3. Banslikana
4. Chiasma
5. Autumn Leaves
6. Ko's Daydream
7. Lullaby
8. Bird

山下洋輔 - piano

Recorded on July 5, 1976 at Tonstudio Bauer, Ludwigsburg, West Germany.