このアルバムのプロデューサーであるホルスト・ウェーバーが、山下洋輔とセシル・テイラーのピアノトリオ演奏の相違点をLPのライナーノーツで述べている。「ヨースケ・ヤマシタ = 形態原理としての音楽的閉鎖性、セシル・テイラー = 表現の可能性としての音楽的自由およびフォルム」。しかし、自分の感覚としては全く逆だ。ヨースケには突き抜け感があり、テイラーには聴き手を遮るようなある種の壁を感じる。この受け止め方の違いは、どうしようもない。西洋と東洋の違いだろうか。
CDのライナーノーツでは、工藤由美氏が「自由と抑制、緊張と解放、大胆にして繊細、伝統と先進性。そういったものがぶつかり溶け合いながら、聞き手をカタルシスの極みへと導いていく」と。あまりにも抽象的な解説で、このアルバムの本質を掘り下げているとは思えない。
このアルバムは、成功でもあり失敗でもあったと思う。なぜに、A Night In TunisiaやAutumn Leavesといった、あまりにもスタンダード過ぎるスタンダード曲を入れたのだろう。つまり、聴き手が落ち着く場所を作ったということなのだ。ピアノソロで勝負に賭けるヨースケに甘さがあったということになる。ジャズも山下洋輔も知らない人に、ジャケットを見せたら「この人、どんな罪を?」と聞かれてもおかしくない。
1. A Night In Tunisia
2. Stella
3. Banslikana
4. Chiasma
5. Autumn Leaves
6. Ko's Daydream
7. Lullaby
8. Bird
山下洋輔 - piano
Recorded on July 5, 1976 at Tonstudio Bauer, Ludwigsburg, West Germany.