山下洋輔 / A Tribute To Mal Waldron

そもそも、1980年6月に、なぜマル・ウォルドロンに捧げるアルバムを作ったのか。油井正一氏のライナーノーツでは「山下洋輔はずっと昔からマル・ウォルドロンにひそかな共感と敬意を抱いていたのである」とあっさりと書いているだけ。それって、ヨースケだけの話ではないだろう。

この年のヨーロッパ楽旅の最後に、ヨースケのソロを録音する契約だったらしいが、プロデューサーのホルスト・ウェーバーが国仲勝男のベースを入れたいと契約変更を申し出たらしい。3曲目のMal Is Back In Townはヨースケ、残り3曲はマルの作品。ヨースケはソロでの構想を描いていたはずなので、本来の曲数はもっと多かったはずだ。もしくは、トリオに合ったマルの作品を改めて探した可能性もある。所有するヨースケのアルバムを調べると、ピアノ・ベース・ドラムによるトリオでの録音はこの時が初めて。これが正しいとすれば、マルはどうでもよく「ヨースケ、ついにピアノ・ベース・ドラムのトリオに初挑戦!!」のようなキャッチコピーになるのだ。

1. Trane's Soul Eyes
2. One-Upmanship
3. Mal Is Back In Town
4. Minoat

山下洋輔 - piano
国仲勝男 - bass
小山彰太 - drums

Recorded on June 17 & 18, 1980 at Studio Bauer, Ludwigsburg.

山下洋輔 / Hot Menu

果たして、山下トリオはニューヨークで受け入れられたのか?このアルバムを聴く限りでは、ブーイングもなければ、熱狂的な拍手もなかったように思える。「こんな演奏をピアノ、ドラム、サックスのトリオでするなんて凄いぞ!でも、何の曲なんだ?」というのが、ライブを聴きに来た人の感想だったのではないだろうか。日本人なら、「うさぎのダンス」や「砂山」をモチーフにした構成ということで、ヤマト魂ならぬヤマシタ魂を素直に感じるのだが。

ヨーロッパで絶賛された山下トリオは、アメリカ・ニューヨークでも通じるのかという問いに答える企画であったと思うが、結果は不戦敗。いや、不戦勝であったかもしれない。つまり、彼らが戦う土俵、もしくは四角いリングが用意されていなかったということだ。ニューヨークにおいては、時代を先取りし過ぎたのかも知れない。調べた資料によると、このライブ録音の後、スタジオ録音は多数あるものの10年近くはニューヨークでライブ活動はしていない。ダンスを踊ったウサギは月に帰るしかなかったのか。

1. Introduction - Rabbit Dance (Usagi no Dance)
2. Mina's Second Theme
3. Sunayama

Yosuke Yamashita / 山下洋輔 - piano
Akira Sakata / 坂田明 - alto saxophone, alto clarinet
Shota Koyama / 小山彰太 - drums

Recorded on June 29, 1979 at JAZZ AT THE SYMPHONY, held as part of Newport Jazz Festival, NYC.

山下洋輔 / First Time

1979年6月29日、山下トリオはニューポート・ジャズ・フェスティバルに初出演。その模様がアルバムHot Menuに収録された。それに先立って、AEOC(アート・アンサンブル・オブ・シカゴ)の主要メンバー〈Joseph Jarman(ジョセフ・ジャーマン)、Malachi Favors Maghostus(マラカイ・フェイヴァース)、Famoudou Don Moye(ドン・モイエ)〉と、ヨースケがスタジオ録音したのが本作First Timeである。

全曲がヨースケの作品であり、3人の共演者の頭文字からFor D, For M, For Jと曲名がついた。岩浪洋三氏によるライナーノーツではこう書かれている(1979年9月付け)。「山下洋輔はこのセッションには大変満足だったという。ニューヨークも黒人ジャズメンとの共演もみんなはじめてだったので、アルバムタイトルは〈ファースト・タイム〉とつけられた」。AEOCの3人も日本のジャズ、そしてヨースケのジャズに爽快感を得たのではないだろか。問題は1つ。Hot MenuはCD化されたが、First Timeは未だにCD化されていない。権利交渉が面倒なのだろうか。

1. For D
2. For M
3. For J
4. Thus We Met
5. Cymbal Bird

山下洋輔 - piano
Joseph Jarman - alto saxophone, flute
Malachi Favors Maghostus - bass
Famoudou Don Moye - drums, cymbals, gongs, percussion

Recorded on June 26 & 27, 1979 at Generation Sound Studio, NYC.