富樫雅彦 / Kizashi

『兆(きざし)』。1980年の当時、富樫と山下がデュオで演奏するなんて考えられなかった。大きな枠では言えば、もちろんどちらもジャズ。すなわち即興演奏。しかし、簡潔に言えば「緊張感の富樫」と「スピード感の山下」では、接点を見いだすのは極めて難しい。それを仕掛けたのはスイングジャーナル元編集長の児山紀芳氏(2019年2月3日死去、82歳)。

このアルバムは、それぞれが相手の得意技を引き出そうと前に出たり後ろに下がったりして、不均衡の調和を見出している。この「不均衡の調和」こそが、ジャズの醍醐味かもしれない。それは、それぞれの曲の中で、一瞬にして現れ、一瞬にして消えていく。

1. Action
2. May Green
3. Nostalgia
4. Feelin' Spring
5. Duo Dance
6. We Now Singing

山下洋輔 - piano
富樫雅彦 - percussion

録音 1980年4月15, 16, 17日 / 東京音響ハウス

富樫雅彦 / Valencia

富樫と加古のデュオ。非常に高いに緊張感が漂い、いわゆるインタープレイなどと言う言葉では片づけられない。太鼓から発せられる一つのパルス、ピアノの鍵盤から弾かれる一音。もし、この録音に立ち会っていたら、自分は凍り付いていたのではないだろうか。二人は一瞬の隙を見せないし、聴き手に一瞬の隙も与えてくれない。

ラスト曲、加古の作品によるSpring Will Comeで、ようやく聴き手を解放してくれる。「自分たちのジャズを最後まで聞いてくれてありがとう」というメッセージのようにも思えてくる。

1. Valencia
2. How Are You
3. Snow Night
4. Blast
5. Spring Will Come

加古隆 - piano
富樫雅彦 - percussion

録音 1980年1月22, 23日 / 東京音響ハウス

富樫雅彦 / Session In Paris Vol.2

1980年2月16日付けのライナーノーツで、悠雅彦氏がこう書いている。『性格のやや異なったこの第1集、第2集のパリ・セッションを通して、ぼくはあらためて富樫の音楽の大きさ、ヒューマンな豊かさ、真にスピリチュアルな境地を開拓したパーカッション技法の素晴らしさに目を見張らされる思いだった』。ちなみに、第1集と第2集のサブタイトルは、それぞれ「Song of Soil(大地のうた)」、「Color of Dream(彩られた夢)」と付けられている。富樫にとって、パリでの録音は大きな挑戦であったのだろう。

プロデューサー高和元彦氏による録音スタジオの解説。『パリ第5区のサンジェルマン大通りとソルボンヌ大学の中間にある「ラムゼス/ステュディオ・デュ・ヴィラージュ」であり、おそらく200年は経つと思われる古い建物の地下2枚にある石壁に囲まれた小部屋であった。およそスタジオのイメージとはかけはられたこの地下室は、多分酒倉か何かだったのだろう。その石壁にはカーテンや板などを一部にはって吸音はしているが、部分的に露出している石壁は個々の楽器に響きを与え、近代的なスタジオとは違った音色上の魅力が生まれている』。ジャケット裏には、セッションの写真があり、このスタジオを想像しながら聴くとColor of Dreamのイメージが湧いてくる。

1. Crystal
2. Orange
3. Acting
4. Snow
5. Reve Merveilleux
6. Ballad

Albert Mangelsdorff - trombone
加古隆 - piano
Jenny Clark - bass
富樫雅彦 - percussion

Recorded on July 17 & 18, 1979 at Ramses, Studio Du Village, Paris.