富樫雅彦 / Spiritual Moments

1983年9月、増上寺ホールでの富樫雅彦とスティーヴ・レイシーのデュオを聴きに行ったことがある。演奏する彼らの周りに椅子が並べられて、一つの音楽空間を共有するちょっと不思議な体験だった。コンサート会場やライブハウスとは違う形式の演奏会。非常に緊張感があり、集中し過ぎたせいか疲れたなぁというのが本音だった。

このアルバムでは、富樫とレイシーにケント・カーターのベースが加わることで、緊張感に開放感がプラスされている。つまり、曲の道筋が予感できることで安心感があり、肩に力が入らずゆったりと聴けるのである。しかし、3者のインプロビゼーションは、聴く者を凍らせるほどの緻密さが潜んでいる。

レコーディングに立ち会ったベーシストの翠川敬基の解説から抜粋。「今こうしてアルバムになったものを再び聴き返してみても、その熱い雰囲気が甦ってくる。それどころか、一つの音のカケラさえもおろそかにしない彼等の演奏ゆえに、一曲一曲のニュアンスや音の密度といったものが新たな空間を構築して凄まじい呪縛力で聴くものをとらえるのだ」。

1. It's Freedom Life
2. The Window
3. Poem In The Shadow
4. Steps
5. The Crust

Steve Lacy - soprano saxophone
Kent Carter - bass
Masahiko Togashi / 富樫雅彦 - percussions

Recorded on October 15 & 16, 1981 at King Records Studio No.2, Tokyo.

富樫雅彦 / The Face Of Percussion

2016年8月、青春18きっぷで新潟、秋田と周り、17日に盛岡に入った。とは言っても、台風の影響で電車は大幅に遅延。横手から北上まではJRが用意したタクシーに乗り込んで、秋田から盛岡まで9時間16分。盛岡の目的はジャズ喫茶『開運橋のジョニー』再訪。翌18日は、宮古、久慈、八戸と巡って盛岡に戻り、ジョニーを連夜の訪問。

マスターの照井さんが「久保さん、このアルバム知ってる?」と出してくれたのがThe Face Of Percussion。「ええ、持ってますよ」「さすが!なら、これあげるよ」と。1988年4月16日、陸前高田市民会館大ホールでの富樫カルテットを撮影したシルクスクリーン。富樫のサイン入り。

富樫のパーカッションによる多重録音でのソロアルバム。1980年11月14日付けの悠雅彦氏によるライナーノーツから以下を抜粋。「彼(富樫)は言っている。オスティナートがあると、もう1人の打楽器奏者がいる感じで、これに対応して重ねていくことができるし、歌いたいというもののルーツになってくれる。つまり、発展させることができるわけだ。だからオスティナートが単調であればあるほどイメージが発展するし、より多彩なフリー・ミュージックが生みだせるということになるんだよ」。

オスティナートとは反復リズムのこと。富樫の発言は非常によく分かる。反復リズムによって、気持ちが高まり感覚が研ぎ澄まされていくのは確かである。だが、それを富樫一人で演じることにしたのは何故だろう。多重録音の是非を論じるつもりはないが、多彩なフリー・ミュージックを生みだすことが目的であったならば、信頼できる打楽器奏者と共に一発勝負を挑んで欲しかった。そんなリクエストをしたいぐらいの素晴らしいアルバムなのである。

1. Something Coming
2. Pray
3. Let's Sing, Let's Dance
4. Ballad For Loneliness
5. Heratstrings
6. Whispering Stars
7. Something Leaving

富樫雅彦 - percussion

Recorded on August 12 - 14 & 18 - 20, 1980 at King Records Studio No.2, Tokyo.

富樫雅彦 / AL-ALAPH

総勢17名。その中に、ベースとドラムが2人ずつという変則構成。もちろん、富樫雅彦のパーカッションの他にである。さらに、郵便貯金会館ホールでのライブ演奏。つまり、入念な準備のもとでの壮大な実験的録音と言えるだろう。ライナーノーツで、野口久光氏は「このコンサートが1980年の最も記憶すべきイベントであると同様に、このアルバムもまたこの年の最も重要な作品となることは疑いない」と書いている。

反論する気はないが、あくまでも実験的な意味での重要な作品と言わざるを得ない。複数の打楽器やベースの配置の必然性が、表現できているとは思えないからだ。かつて2枚組LPで発売されたが、CDならば1枚に収まる収録時間。実験が成功だったか失敗だったかは、演奏側、観客側、そしてアルバムを聴く側で違うだろう。だが、記録として残していく必要はある。にもかかわらず、未だにCD化されておらず、置き忘れてしまったアルバム。AL-ALAPH(アル・アラーフ)は、ギリシャの伝説に出てくる架空の星の名前らしい。アルバムそのものが、架空のものとなってしまった。

1. Al-Alaph (Opening)
2. Wind
3. Street
4. Lonely
5. Hole
6. Al-Alaph (Closing)

富樫雅彦 - percussion

Improvisation Jazz Orchestra
佐藤允彦 - acoustic piano, electric piano
井野信義 - bass
鈴木勲 - bass
中川昌三 - soprano saxophone, alto flute
佐藤秀也 - soprano saxophone, alto saxophone
梅津和時 - soprano saxophone, alto saxophone, bass clarinet
加藤久鎮 - soprano saxophone, tenor saxophone
砂原俊三 - baritone saxophone
佐藤春樹, 粉川忠範 - trombone
庄州次郎, 小宮一雄, 服部勝二 - trumpet, fluegelhorn
伊藤比呂志 - electric violin
高木幹晴, 宮内俊郎 - drums

録音 1980年4月30日 / 郵便貯金会館ホール