高田渡 / ごあいさつ

このアルバムがリリースされたのは、1971年6月。1949年1月生まれの渡であるから、この時、まだ22歳。大阪万博の翌年。高度経済成長第二期の真っただ中である。「ケーザイ」という軸とは、まったく違う軸で唄を歌い続けてきた渡。それは決して、高田渡と言う「私的」ではなく、渡が見ていた庶民の生活を唄に写してきたこと。

当時、このアルバムのコーヒーブルースを聴いて三条の「イノダ」へ行かなくちゃ、と思った。そして、ワタル的な「生活の柄」。どの曲も唄い放されて終わる。唄い終わるのではなく、唄い放つ。聴き手は、放された言葉を掴み取って、自分の中に溜めざるを得ない。溜めた瞬間、渡とつながってしまう。

* * * * *

生活の柄(作詞:山之口貘 作曲:高田渡)

歩き疲れては 夜空と陸との 隙間にもぐりこんで
草に埋れては 寝たのです 処かまわず寝たのです

1. ごあいさつ
2. 失業手当
3. 年齢・歯車
4. 鮪に鰯
5. 結婚
6. アイスクリーム
7. 自転車にのって
8. ブルース
9. おなじみの短い手紙
10. 珈琲不演唱(コーヒーブルース)
11. 値上げ(変化)
12. 夕焼け
13. 銭がなけりゃ
14. 日曜日
15. しらみの旅
16. 生活の柄

高田渡 - guitar (tracks 1,3-6,8-12,14,16), flat mandolin (tracks 2,7)

はっぴいえんど (tracks 2,7,13,15)
大滝詠一 - guitar, chorus
鈴木茂 - guitar, chorus
細野晴臣 - bass, piano, chorus
松本隆 - drums, chorus

池田光夫 - bandoneon (tracks 4,9,14)
石田順二 - fiddle (tracks 13,16)
中川イサト - guitar (tracks 13,15)
木田高介 - piano (track 5)
岩井宏 - banjo (tracks 13,16), chorus (tracks 7,13,16)
加川良 - chorus (tracks 7,13,16)
遠藤賢司 - chorus (track 13)

発売 1971年6月1日

高田渡 / 汽車が田舎を通るその時

2012年2月19日付けで、以下のようなブログを書いていた。この体験は文章として残しておきたい。

先週末は自動車部品工場の生産ラインに入った。総勢150名近くで、その1/3ほどがブラジル人。手作業で組み立てられていく。両隣に座ったのがブラジル人の女性。というか、その間に座らされた。右手の女性は日本語が話せない。左手の女性はかなり流暢。単純作業が朝から続き、夕方になるとさすがに飽きてきた。左手の女性が「あ~あ、もう飽きちゃった」と。その一言がきっかけになって、会話が始まった。

現在35歳で20年前に日本に来たという。子供は男の子で15歳になるが、サンパウロに住んでいる。しかし、その子には父親がいない。つまり、子供ができて父親である男は逃げたということだ。結婚はしなかった。子供をサンパウロに住む母親にあずけ日本で働いている。楽しみは、ビザの関係で来年四月にサンパウロに行けること。ただ、子供は3歳のときに別れたので、ママとは呼んでくれない・・・会話が途切れ、終業の17時15分となった。日本の自動車産業は、このような人達に支えられているのだ。「労働者」の視点で唄い続けてきた高田渡。「ゼニがなけりゃ」「出稼ぎの唄」「鉱夫の祈り」「この世に住む家とてなく」。

1. ボロ・ボロ
2. 春まっさい中
3. 日曜日
4. 酒屋
5. 汽車が田舎を通るそのとき
6. 来年の話をしよう
7. 朝日楼
8. 新わからない節
9. ゼニがなけりゃ
10. 出稼ぎの唄
11. 鉱夫の祈り
12. この世に住む家とてなく

高田渡 - 唄, ギター

録音 1969年8月13, 14日, 9月2日

高田渡 / 高田渡・五つの赤い風船

URC(アングラ・レコード・クラブ)が1969年2月に設立され、その第一回配布レコード。A面がスタジオライブの高田渡(ディレクター:高石友也)、B面が五つの赤い風船(ディレクター:加藤和彦)。アルバムタイトルが明確に設定されていなかったので、当時は「渡と風船」のレコードと呼んでいた。CDは2002年9月にURC復刻シリーズ第一回としてリリース。

注目は、高田渡の「自衛隊に入ろう」。防衛庁(現防衛省)から自衛隊のPRソングとしての申し出があった。その後、逆説的な歌であることを知り申し出の断りがあり、さらには放送禁止歌となった。風船に関しては、その後の活動の原点がここにはあり、すでに完成度の高いグループであったことが分かる。改めて録音データを確認したところ、1968年11月13日(水)に同じスタジオで渡と風船が録音している。渡はライブなので、昼間に風船、夜は渡だったのだろう。

1. 事だよ
2. 現代的だわね
3. 自衛隊に入ろう
4. ブラブラ節
5. しらみの旅
6. あきらめ節
7. 冷やそうよ
8. テーマ(オープニング)
9. 恋は風に乗って
10. 二人は
11. 遠い世界に
12. 血まみれの鳩
13. もしもボクの背中に羽根が生えてたら
14. 一つの言葉
15. 遠い空の彼方に
16. テーマ(エンディング)

Tracks 1 - 7
高田渡
録音 1968年11月13日(毎日放送千里丘第1スタジオ)

Tracks 8 - 16
五つの赤い風船(西岡たかし、藤原秀子、中川イサト、長野隆)
録音 1968年11月13日, 1968年11月26日, 1969年1月3日(毎日放送千里丘第1スタジオ)