清水俊彦 / ジャズ・ノート

1981年4月15日発行 晶文社 定価2400円。416ページ。以下の目次から分かるように、清水俊彦氏の『ジャズ・ノート』は限られた範囲のジャズであり、そのジャズ論は極めて概念的である。ゆえに、ジャズをロジックの積み重ねで論じる。読者への呼びかけは何一つない。では、彼は何のために、誰のためにジャズを論じたのか。この本に刻まれた一語一句は、あまりにも自己満足なのだ。

第I章
・ジョン・コルトレーンの破壊と再生についてのノート
・コルトレーンの三つの「マイ・フェイヴァリット・シングス」
・コルトレーン主義
・アルバート・アイラーの想像の博物館のブラック・ユーモア
・アイラーの戦いはまだ終わっていない
・影からきた魔法使い ― エリック・ドルフィー
第II章
・セシル・テイラー/裸になった火の意志表示によるジャズ
・1965年/オーネット・コールマン・トリオ
・ドン・チェリーについての断章
・完全な音楽気狂い ― ジュゼッピ・ローガン
・スティーヴ・レイシー/叫びの探究と新しい構造化
・ジャズにおけるパラレルなディスクール
・空間の予言者 ― サン・ラ
・アート・アンサンブル・オヴ・シカゴと〈偉大な黒人音楽〉
・カーラ・ブレイの「エスカレーター・オーヴァー・ザ・ヒル」
第III章
・60年代後半のマイルス・デイビス
・マイルス・アヘッド
・キース・ジャレットについてのノート
・ヨーロッパの即興音楽
・組織化された攻撃

鈴木良雄 / 人生が変わる55のジャズ名盤入門

2016年末に前職を定年退職。それを記念?して、翌17年8月後半に5回目の『青春18きっぷ』の一人旅に出た。糸魚川(黒部へ寄り道)、秋田、弘前、盛岡という行程。旅の仕上げは、盛岡のジャズ喫茶『開運橋のジョニー』で鈴木良雄さんのライブを満喫。その場で直接ご本人から購入したのが本書(発行:竹書房 2016年2月11日 1,000円+税)。その時点では、55枚中の4枚が未所有。現在では全て揃えることができた。ようやく「人生が変わった」ということだろうか。

ジャズマンが書いた本なので、実体験が記載されていて楽しく読める。例えば、モダン・ジャズ・カルテットの〈ジャンゴ〉のページ。「大学の頃は、雀荘にいるかジャズ研の部室にいるか、新宿のジャズ喫茶にいるか・・・でしたからね」。全く同じである。自分の場合は、新宿ではなく中野か吉祥寺だったけれど。鈴木さんはちょうど人生の10年先輩。ジャズ研とは人生を勉強する場所なのである。

坂田明 / 私説「ミジンコ大全」

昨年に続き、ココファームの収穫祭はオンラインになってしまった。秋空の下、ワインを飲みながら坂田明のライブ演奏を体験するのが、これまで最高の楽しみだった。ライブ配信では、その感動を味わうのは無理がある。なので、坂田のアルバム『海』を聴きながら、著書『ミジンコ大全』を開いて、来年こそはと願うのみ。

2013年1月20日発行 晶文社 定価2,500円。ジャズとは関係ない。著者が坂田明だからと言って、ジャズとは関係ないのだ。なぜなら、『あとがき』で彼はこう書いている。「実は私にはジャズはできない。目指したことはある。だが、できないことに気が付いて久しい」。この文章だけ読むと意味不明なので、『あとがき』全体を読んでもらいたい。生物学・遺伝子学の準専門書なので、眠くなりそうになったら、付属のCD『海』を聴くべき。2,500円が決して高くないと納得するだろう。坂田撮影によるミジンコ図鑑(32ページカラー写真)も本書に含まれている。しかし、このCDはジャズでなくパンクである。そうあとがきに書いてある。そう思う人は誰一人いないだろうが。つまり、坂田の人生がパンクなのだ。以下の本書帯の裏面から引用。

「最初に驚きと感動を覚えたのは、コップの中に入れたミジンコを虫眼鏡で覗いたときでした。ミジンコに焦点を当てると、コップの中は無限の宇宙のように広がりを感じさせます。次に衝撃を受けたのは、生きたミジンコを顕微鏡で覗いたときで、ミジンコの体は透明ですから、鼓動する心臓までが丸見えになるのです。〈命が見えた!〉と、とにかく強い衝撃を受けました」。