Miles Davis / Black Beauty

「エレクトリック・マイルス」-「ウェイン・ショーター」=「緊張感の崩れ」。ショーター脱退のあとに、スティーブ・グロスマンを入れたことで、マイルスグループから緊張感が消え去ってしまった。決して、グロスマンに責任があるのではなく、マイルスのミスキャスト。さらに、チック・コリアにはマイルスが抱いている曲のイメージを具現化する力はない。マイルスはサウンドを完成することより、粗削りでもいいから演奏することに集中した。つまり、マイルスは焦っていたのだ。

マイルスは自分が描いているグループサウンドには、まだまだ遠いことを分かっていたはず。それが故に前へ進まなければなかった。レコード会社からの圧力ではなく、ロック野郎達には負けられないという闘争心があったから。このアルバムは、リズムや緊張感を感じるのではなく、マイルスの闘争心に波長を合わせなければならない。なお、2枚組LPのときは、Black Beauty - Part I,II,III,IVとなっていたが、CD化で計9曲に曲名が付与された。

LP
1. Black Beauty - Part I
2. Black Beauty - Part II
3. Black Beauty - Part III
4. Black Beauty - Part IV

CD - Disc 1
1. Directions
2. Miles Runs The Voodoo Down
3. Willie Nelson
4. I Fall In Love Too Easily
5. Sanctuary
6. It's About That Time

CD - Disc 2
1. Bitches Brew
2. Masqualero
3. Spanish Key / The Theme

Miles Davis - trumpet
Steve Grossman - tenor saxophone, soprano saxophone
Chick Corea - Fender Rhodes electric piano
Dave Holland - electric bass
Jack DeJohnette - drums
Airto Moreira - percussion, cuica

Recorded on April 10, 1970 at The Fillmore West, San Francisco.

Miles Davis / Jack Johnson

黒人として初の世界ヘビー級王者(1908年-1915年)となったジャック・ジョンソン(1878年3月31日 - 1946年6月10日)。そのジャックのドキュメンタリー映画音楽をマイルスが担当。だが、このアルバムは本質的にはマイルス作ではなく、プロデューサーであるテオ・マセロの作品である。録音テープを切り、そして繋いで、さらには、別音源も持って来て仕上げている。

ジャズとロックの垣根を取り払ったアルバムと評価されているようだが、ちょっと違うだろう。ジャズ本来が持っている瞬発性に反旗を翻した一枚。少なくとも、制作する時点では、ロックとの接点などは考えていなかったはずだ。画期的だとは言わないが、1970年代を疾走しようとしたマイルスがここにいる。LPのジャケットは品がなく、ジョンソンの私生活を現したイラスト。CD化で、このイラストは裏面に移動し、マイルスの写真が表面を飾った。

1. Right Off
2. Yesternow

The first track and about half of the second track (recorded on April 7)
Miles Davis - trumpet
Steve Grossman - soprano saxophone
John McLaughlin - electric guitar
Herbie Hancock - organ
Michael Henderson - electric bass
Billy Cobham - drums

The "Willie Nelson" section of the second track, starting at about 13:55 (recorded on February 18)
Miles Davis - trumpet
Bennie Maupin - bass clarinet
John McLaughlin - electric guitar
Sonny Sharrock - electric guitar
Chick Corea - electric piano
Dave Holland - electric bass
Jack DeJohnette - drums

Recorded on February 18 and April 7, 1970 at Columbia 30th Street Studio, NYC.

Miles Davis / It's About That Time

1970年3月、マイルスが初めてロックの殿堂『フィルモア・イースト』に出演したノーカット・ライブ。しかし、この音源がアルバムとして世に出たのは2001年7月。何故か30年以上も倉庫に眠っていたのだ。マイルス自叙伝②では、マイルスがこのライブについて次のように語っている。

「1970年に〈フィルモア・イースト〉で、スティーブ・ミラーというお粗末な野郎の前座をしたことがあった。クロスビー・スティルス・ナッシュ・アンド・ヤングも一緒だった気がするが、彼らは少しはましだった。とにかくスティーブ・ミラーは、およそどうしようもない、ろくな演奏もできない野郎だった。くだらないレコードを一、二枚出してヒットさせたというだけで、オレ達が前座をやらされることに、むかっ腹を立てていた。だから、わざと遅れて行って、奴が最初に出なければならないようにしてやった。で、オレ達が演奏している時に、会場全体を大ノリにさせてやった」。

この発言を裏付けるのが、ニール・ヤングのアルバムLive At The Fillmore Eastのジャケット。ただし、この時はクレイジー・ホースを引き連れて出演。さらに、ジャケット内には、この日のライブをレビューした新聞記事が載っている。そこには、マイルスが遅刻したとはないが、The Steve Miller Blues Band opened the showとある。マイルスの格言。「前座いやなら遅刻しろ!」。

Disc 1 - First Set
1. Directions
2. Spanish Key
3. Masqualero
4. It's About That Time / The Theme

Disc 2 - Second Set
1. Directions
2. Miles Runs The Voodoo Down
3. Bitches Brew
4. Spanish Key
5. It's About That Time / Willie Nelson

Miles Davis - trumpet
Wayne Shorter - soprano saxophone, tenor saxophone
Chick Corea - Fender Rhodes electric piano
Dave Holland - acoustic bass, electric bass
Jack DeJohnette - drums
Airto Moreira - percussion, cuica

Recorded on March 7, 1970 at The Fillmore East, NYC.
Released on July 17, 2001.