Bud Powell / Hot House

Kindle読み放題で、原田和典氏の著書『世界最高のジャズ』を見つけた。その中で紹介されていたのが本作。5年余りをパリで過ごしたバド・パウエルが、ニューヨークに戻る直前にフランスの避暑地で録音したプライベート音源。原田氏は次のように書いている。

「パウエルにジョニー・グリフィンが真正面からぶつかり、技の応酬を聴かせてくれる。あきらかにパウエルがグリフィンに刺激され、彼のチョップを受け、それを切替えしているのがかわる。そりゃあ、このパウエルに40年代の機銃掃射のような音使いはもはや、ない。だがこの気迫を前にすると、運指の乱れなどを言及するのは愚の骨頂に思えてくる。モンクの曲を舞台に、パウエルとグリフィンが果てしなく燃え上がる〈ストレート・ノー・チェイサー〉1曲で、このアルバムは”買い”だ」。まさしく同感。しかし、グリフィンは全7曲中の3曲のみに参加なので、チョップの連打ではない。

1. Straight, No Chaser
2. Salt Peanuts
3. Move
4. Bean And The Boys
5. Wee
6. 52nd Street
7. Hot House

Johnny Griffin - tenor saxophone (tracks 1,5,7)
Bud Powell - piano
Guy Hayat - bass
Jacques Gervais - drums

Recorded on August 8-14, 1964 at "Hotel-Restaurant La Belle Escale", Edenville, France.

Bob Dylan / ボブ・ディラン自伝

2005年7月29日発行 ソフトバンク・クリエイティブ株式会社 1800円。365ページ。第1章「初めの一歩」、第2章「失われた土地」、第3章「新しい夜明け」、第4章「オー・マーシー」、第5章「氷の川」。

第3章は、1970年夏に録音したアルバムNew Morningを示しているものの、レコーディングの経緯よりもウッドストックでの生活を中心に描いている。そして、本書の核となるのは第4章。ページ数が最も多く、1989年前半に録音したアルバムOh Mercyに関して詳細に記述している。ディランにとって、大きな変曲点となったアルバムであったことが分かる。このアルバムの制作に着手する前の心境を、ディランは次のように書いてる。

「わたしには歌をつくりたいという強い欲求がまったく湧いてこなかった。いずれにしても長いあいだ、歌をつくってはいなかった。わたしは曲づくりをやめていた。つくりたいという気持ちがなくなっていた。最近の何枚かのアルバムには、自作曲がさほど入っていない。ソングライターでいるということについて、わたしはこれ以上ないくらい無頓着でいた。すでにたくさんの曲をつくっており、それで充分だった。わたしは必要なことをすべてやって目標に到達したのであり、それ以上の目標を持っていなかった。〈中略〉ふたたび何かを書こうとは決して思わない。どちらにしても、歌はこれ以上必要なかった」。

しかし、Oh Mercyの1曲目に収められたPolitical Worldの詩が、突然として湧いてくる。それをきっかけにして、ディランは復活した。

Bob Dylan / はじまりの日

2010年3月発行 岩崎書店 定価1,600円。ディランの曲Forever Youngを詩人Arthur Binard(アーサー・ビナード)が日本語に訳し、イラストレーターPaul Rogers(ポール・ロジャース)が絵にした。この絵本には、ディランによるこの曲の解説が載っている。

「ぼくはひとりアリゾナ州に行って、そこで息子のことを思いながら〈フォーエバーヤング〉という歌をつくった。べつに作詞作曲をやろうと意気込んだわけじゃなく、自然にうかんできて、そのままできあがった。なるべく感傷的にならないように、ちょっと努力しただけだ」。以下は、ビナードの訳詞とディランの原詩の最初。ディランの作品の中で、自分が最も好きな曲の一つ。

きみが 手をのばせば しあわせに とどきますように
きみのゆめが いつか ほんとうに なりますように
まわりの 人びとと たすけあって いけますように
星空へ のぼる はしごを 見つけますように
毎日が きみの はじまりの日
きょうも あしたも
あたらしい きみの はじまりの日

May God bless and keep you always
May your wishes all come true
May you always do for others
And let others do for you
May you build a ladder to the stars
And climb on every rung
May you stay forever young
Forever young, forever young
May you stay forever young

この絵本の最後には、ロジャースによる一枚一枚の絵の解説が載っている。それを読みながら、繰り返し絵を見るのも楽しい。絵の中には様々な人物が登場する。なんと、セロニアス・モンクまでいるのだ!