Bob Dylan / "Love And Theft"

アルバムタイトルには引用符が付いて『"Love And Theft"』(愛と盗み)。つまり、書物などからの引用を暗示している。2001年9月11日、全米発売。同時多発テロとは無関係だが、『浅草博徒一代』(佐賀純一著)から借用した表現が見られる箇所が、6曲もあることはよく知られている。文庫版のあとがきで、佐賀氏は「ボブ・ディランという偉大な歌手が新しい命を吹き入れてくれたことを、私は心から感謝している」と書いている。英訳はJohn Besterで、書名はConfessions of a Yakuza(あるヤクザの告白)。ディランはYakuzaという言葉を知っていて、興味を持ち読み始めたのだろう。

そして、気になる表現をもとに曲作りに取り掛かった。それだけではない、1曲目はイギリスの童謡Tweedledum and Tweedledeeをヒントにしている。8曲目Moonlightには、It takes a thief to catch a thief(蛇の道は蛇)、For whom dose the bell toll(誰がために鐘は鳴る)のセンテンス。格言とヘミングウェイの小説から引用。最終曲Sugar Babyの歌詞の最後には、ソングライターGene Austinの作品Lonesome Roadからのパクリが出てくる。"Love And Theft"は"Lyric And Theft"でもあるのだ。

だが、そんな盗用の部分だけを着目しても意味が無い。Mississippiの歌詞はこう始まる。「一歩一歩、わたしたちは歩き続ける/きみが生きられる日は限られているし、このわたしもそうだ/時間は積み重なり、もがきながらもどうにか暮していく/誰もが閉じ込められ、逃げ場所はどこにもない」。そして、「わたしのたった一つの間違い/それはミシシッピに一日多く留まってしまったこと」と繋げていく。ノーベル文学賞の決め手となった一曲。そう断言したい名曲である。結局のところ、自力で歌詞を訳さないとディランに近づけないことを実感させられるアルバムなのだ。

1. Tweedle Dee & Tweedle Dum
2. Mississippi
3. Summer Days
4. Bye And Bye
5. Lonesome Day Blues
6. Floater (Too Much To Ask)
7. High Water (For Charley Patton)
8. Moonlight
9. Honest With Me
10. Po' Boy
11. Cry A While
12. Sugar Baby

Limited edition bonus disc
1. I Was Young When I Left Home / recorded on December 22, 1961.
2. The Times They Are a-Changin' (alternate version) / recorded on October 23, 1963.

Bob Dylan - vocals, guitar, piano
Larry Campbell - guitar, banjo, mandolin, violin
Tony Garnier - bass guitar
David Kemper - drums
Augie Meyers - accordion, Hammond B3 organ, Vox organ
Clay Meyers - bongos
Charlie Sexton - guitar

Recorded in May 2001.

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