1992年11月リリース。ギターの弾き語りで構成し、ディランは原点に戻ろうとしたのかと当時思った。オリジナル曲は一切なく、トラディショナルで埋め尽くされている。寝ぐせのヘアスタイルで写ったジャケットは、「どうにも、新しい曲ができないんだよ」とつぶやいているように見えた。だが、収録された13曲を詳しく調べて行くと、首尾一貫したディランの主張が感じられるのだ。
Frankie & Albertはジョニー・キャッシュが1959年4月に録音。つまり、ディランはキャッシュを見習い、曲捜しをしていた。Jim Jonesはオーストラリア、Blackjack Daveyは米国(?)、Canadee-i-oは英国のトラディショナル。Sittin' On Top Of The Worldはミシシッピ・シークスによって1930年に録音されたカントリーブルース。Little Maggieは1946年にスタンレー・ブラザーズによって録音。
Hard Timesはスティーブン・コリンズ・フォスター(1826 - 64年)の曲。Step It Up And Goは1940年にヒットした曲。Tomorrow Nightは、黒人のジャズシンガーのロニー・ジョンソン(1899 - 1970年)が、1948年にヒットさせた曲。Arthur McBrideはアイルランドのフォークソング。You're Gonna Quit Meは、ブルース歌手のブラインド・ブレイク(1986 - 1934年)の作品。Diamond Joeはトラディショナル曲で、ジャンルはブルーグラス。Froggie Went A-Courtin'は16世紀頃のスコットランド発祥らしい。
つまり、思い付きでトラディショナルを集めたのではなく、1940年代の曲を中心に組み立てている。このアルバムの制作に対し、ある種の発掘作業を試みたのではないだろうか。そして、タイトルGood As I Been To Youは、11曲目のYou're Gonna Quit Meの冒頭の歌詞You're gonna quit me, baby, Good as I been to you, Lawd, Lawd(別れるっていうんだな、オレもそのつもりだった、なんてことだ)に隠されている。トラディショナルの1曲1曲の歌詞をしっかり聴き込んで欲しいと、ディランは寝ぐせヘアと無精ひげで、心の中で叫んでいるのだ。
1. Frankie & Albert
2. Jim Jones
3. Blackjack Davey
4. Canadee-i-o
5. Sittin' On Top Of The World
6. Little Maggie
7. Hard Times
8. Step It Up And Go
9. Tomorrow Night
10. Arthur McBride
11. You're Gonna Quit Me
12. Diamond Joe
13. Froggie Went A-Courtin'
Bob Dylan - vocals, guitar, harmonica
Recorded in Middle 1992.