山下洋輔 / Banslikana

このアルバムのプロデューサーであるホルスト・ウェーバーが、山下洋輔とセシル・テイラーのピアノトリオ演奏の相違点をLPのライナーノーツで述べている。「ヨースケ・ヤマシタ = 形態原理としての音楽的閉鎖性、セシル・テイラー = 表現の可能性としての音楽的自由およびフォルム」。しかし、自分の感覚としては全く逆だ。ヨースケには突き抜け感があり、テイラーには聴き手を遮るようなある種の壁を感じる。この受け止め方の違いは、どうしようもない。西洋と東洋の違いだろうか。

CDのライナーノーツでは、工藤由美氏が「自由と抑制、緊張と解放、大胆にして繊細、伝統と先進性。そういったものがぶつかり溶け合いながら、聞き手をカタルシスの極みへと導いていく」と。あまりにも抽象的な解説で、このアルバムの本質を掘り下げているとは思えない。

このアルバムは、成功でもあり失敗でもあったと思う。なぜに、A Night In TunisiaやAutumn Leavesといった、あまりにもスタンダード過ぎるスタンダード曲を入れたのだろう。つまり、聴き手が落ち着く場所を作ったということなのだ。ピアノソロで勝負に賭けるヨースケに甘さがあったということになる。ジャズも山下洋輔も知らない人に、ジャケットを見せたら「この人、どんな罪を?」と聞かれてもおかしくない。

1. A Night In Tunisia
2. Stella
3. Banslikana
4. Chiasma
5. Autumn Leaves
6. Ko's Daydream
7. Lullaby
8. Bird

山下洋輔 - piano

Recorded on July 5, 1976 at Tonstudio Bauer, Ludwigsburg, West Germany.

山下洋輔 / A Day In Munich

ピアノとベースのデュオ。所有するヨースケのアルバムの中で、聴く回数が少なかった一枚。改めて聴き直し、その理由が分かった。ベースのAdelhard Roidinger(アデルハルト・ロイディンガー)が、ヨースケに負けまいと弾き過ぎている。おかげで、ベース本来の役割を果たしていない。一方のヨースケは、ベースの出方を常に探っている感じ。ベースが「主」でピアノが「副」でも構わないのだが、ヨースケが持つエネルギーを出し切っていない。

プロデューサーのHorst Weber(ホルスト・ウェーバー)は、ライナーノーツでこう書いている。「全曲、前もって何の打ち合わせもなく、即興で演奏されたので、その時点では、ひとつもタイトルがついていなかった。ロイディンガーのアイデアで、タイトルをA Day In Munichとし、それぞれの作品にミュンヘンの市街の名を与えようという事になった」。タイトルの件はどうでも良く、結局のところ、録音が始まってからの二人の打ち合わせを聴かされている感じなのだ。なお、本作はCD化されていない。

1. Milbertshofen
2. Haidhausen
3. Schwabing
4. Neuhausen
5. Bogenhausen
6. Nymphenburg
7. Olympiadorf

山下洋輔 - piano
Adelhard Roidinger - bass

Recorded on June 20, 1976 at Studio 70 in München, West Germany.

山下洋輔 / Breathtake

洋輔という男は、周りからの刺激を受けて、どんどん加速していく。その加速するプロセスで最高のパフォーマンスを示すのだ。しかし、本作はミュンヘンのスタジオでのソロ演奏。ジャケットに写った洋輔の横顔が示すほどの疾走感はない。さっさと切り上げてミュンヘンのビールが飲みたかったのでは…。そうであったなら、それも洋輔らしい。

不思議なのは録音日が特定されていないこと。1975年7月の何日であったかは、どうでも良い話ではあるが、伏せた理由が分からない。ライナーノーツは洋輔自身が書いている。しかし、それはヨーロッパツアーの旅日記。本作の録音については一切触れていない。坂田明と森山威男を連れ立っての旅回りに飽きが来たので、息抜きの録音ということだろうか。タイトルBreathtakeがそんな感じだ。なお、本作はCD化されていない。

1. Roihani
2. Echo
3. Mina's Second Theme
4. Breathtake
5. Entlam
6. It Will Be Forever
7. Turning Point

山下洋輔 - piano

Recorded in July 1975 at München Union Studio, West Germany.