山下洋輔 / Distant Thunder

1975年。欧州での山下トリオは頂点を極めた。アルバムChiasmaは、西ドイツのハイデルベルク・ジャズ・フェスティバルでの6月6日のライブ演奏。そして、本アルバムはその6日後の12日、シュトゥットガルドThe Liederhalleでのライブである。一曲目「ミトコンドリア」。演奏時間20分40秒。いきなり頂点、いや沸点に達してしまう。これを機に、森山威男はトリオを退団。やるべきことをやって、次の自分を目指したのだと思う。つまり、このアルバムは彼らにとっての「やるべきこと」が凝縮されている。それを「やった」瞬間に解体への道を辿ったことになる。しかも、彼の地で。そう考えると、ジャズとは酷な音楽でもある。到達の先に解体が待っている。

二曲目。ゲストのマンフレット・ショーフによるトランペットソロ。ラウンド・ミッドナイト。これは構成ミス。せっかく、山下トリオのゲストとして参加したのだから、ソロはあり得ない。せめて、森山とのデュオを聴かせて欲しかった。三曲目。今度は山下のソロ。ディタント・サンダー。この頃の山下は、ソロへの意欲が湧きだしていたのだろう。70年代後半は、ソロアルバムを連発した。ラストの四曲目。森山作の「ハチ」。ジャケットの裏に譜面が記載されている。テーマはわずか3小節。この3小節を合図に、そこから先は未知の世界へ入っていく。管理され続ける現代社会とは、まったく逆の思想。

1. Mitochondria
2. 'Round Midnight
3. Distant Thunder
4. Hachi

Manfred Schoof - trumpet
山下洋輔 - piano
坂田明 - alto saxophone
森山威男 - drums

Recorded on June 12, 1975 at The Liederhalle, Stuttgart, West Germany.

山下洋輔 / Chiasma

70年代半ば、山下トリオは西ドイツを中心にしてヨーロッパを制圧した、ジャズの世界において。ノックアウトされたいジャズを演じてくれるのが山下トリオだったのはわかるが、同類項のジャズメンはヨーロッパにいなかったのだろうか。時間軸を狂わすようなパフォーマンス。とんでもない磁力で観客を吸いよせていく。たった3人で。1975年6月6日、西ドイツのハイデルベルク・ジャズ・フェスティバルでのライブ演奏。

全6曲だが、Double HelixとHorse Tripは山下と森山によるデュオ、Nitaは山下のソロ、Introhachiは森山のソロという構成。アルバムタイトル、そして挿入曲のChiasma(キアズマ)は生物用語で、染色体間の交差のことらしい。山下の作品だが、坂田の命名ではないだろうか。森山は、この75年のヨーロッパツアーを最後に山下トリオを退団(75年大晦日の渋谷パンテオン「オールナイト・ジャズ・イン」がトリオでの最後の演奏)。Introhachiの森山のソロを聴くと、もの凄い破壊力である。なお、CDのジャケットはLPの裏面で使われていた写真に切り替わった。LPジャケットの写真も捨てがたいのだが。

1. Double Helix
2. Nita
3. Chiasma
4. Horse Trip
5. Introhachi
6. Hachi

山下洋輔 - piano
坂田明 - alto saxophone
森山威男 - drums

Recorded on June 6, 1975 at The Heidelberger Jazztage, West Germany.

山下洋輔 / Frozen Days

このアルバムの前後から、山下洋輔はジャズをこれまでとは違う土俵に持ち込んでいった。洋輔ワールドといってもいいだろう。その世界に入り込めるかどうかは、洋輔が油断した瞬間を見逃すしかない。このアルバムでは、3曲目のChiasmaのアタマに「隙(すき)」があり、坂田明の脇も甘い。ここが狙い目。

山下トリオがそこまで計算したとは思えないのだが、「隙」を演じることで聴き手が彼らと同化できるのだ。いわゆるフリージャズとの本質的な違いがここにある。放つか受け入れるか。Frozen Daysと題されたこのアルバム。「凍りついた日々」とでも訳そうか。まさか、録音から46年後のコロナを予測していたとは思えないのだが。

1. Prophase
2. Double Helix
3. Chiasma
4. Interphase
5. Mitochondria

山下洋輔 - piano
坂田明 - alto saxophone
森山威男 - drums

Recorded on September 25, 27 & 28, 1974.