Miles Davis / Four & More

マイルスはアルバムQuiet Nightsをスタジオで録音した後、精力的にライブ活動を続けるようになった。その中でも最もスピード感と緊張感に溢れているのが本作である。マイルス自叙伝②に、その理由が明確に書かれている。テオ・マセロのやり方に対する反発。ノー・ギャラなら失敗もありだ。この2つが最高のライブアルバムを作り上げたのである。自叙伝を要約すると以下のようになる。

「クワイエット・ナイトを台なしにしたテオ・マセロに腹を立てていた。ミュージシャンは、常にライブでこそすごいと思っていたから、スタジオのやり方には、もういい加減飽きがきていたんだ。で、市民権登録運動の慈善コンサートにでることにした。黒人意識の革命が進み、市民権運動が盛り上がっている時代だった。コンサートは1964年2月のフィルハーモニック・ホール」。さらに、次のように続く。

「その夜のオレ達の演奏は、まさに天井をぶっ飛ばしてしまいそうな勢いだった。みんなが、本当に一人残らず全員が、ものすごい演奏をした。曲はほとんどがアップテンポだったが、ただの一度も狂わなかった。ジョージ・コールマンも、この夜が最高だった。慈善コンサートがノー・ギャラなのが気に喰わない奴もいた。話し合いは行ったり来たりしたが、結局、今度だけは演奏するということで、全員が落ち着いた。だから演奏が始まる時には、みんなカッカしていた。その怒りが火をつけて、バンドに緊張感が漲った。たぶんそれが、全員があんなにも力強い演奏をした理由だったんだろう」。

1. So What
2. Walkin'
3. Joshua / Go-Go
4. Four
5. Seven Steps To Heaven
6. There Is No Greater Love / Go-Go

Miles Davis - trumpet
George Coleman - tenor saxophone
Herbie Hancock - piano
Ron Carter - bass
Tony Williams - drums

Recorded on February 12, 1964 at Lincoln Center's Philharmonic Hall, NYC.

Miles Davis / My Funny Valentine

アルバムFour & Moreと同日の録音。フィルハーモニック・ホールで、1964年2月12日に行なわれた市民権登録運動の慈善コンサートのライブである。収録された演奏のイメージは、Four & Moreが「動」、本作My Funny Valentineが「静」。単純にVol.1 & Vol.2としなかったことに工夫が感じられるが、それなりの販売戦略があったようだ。

本作のリリースは1965年2月で、原番号はColumbia CL 2306である。一方のFour & Moreは66年1月(原番号2453)で、1年近くの間を空けている。何故に「静」を先に出して、1年後に「動」を出したのだろう。自分ならば、まず「動」でマイルスグループの圧倒的なパワーを示し、マーケットが落ち着いた(つまり、レビューが出尽くした)ところで、繊細さも持っているグループであることを提示したい。だが、プロデューサーのテオ・マセロは逆手を取った。恐らく、64年7月リリースの前作In Europeが「動」に近い内容だったので、次は「静」にしたと推察できるのだ。

1. My Funny Valentine
2. All Of You
3. Stella By Starlight
4. All Blues
5. I Thought About You

Miles Davis - trumpet
George Coleman - tenor saxophone
Herbie Hancock - piano
Ron Carter - bass
Tony Williams - drums

Recorded on February 12, 1964 at Lincoln Center's, Philharmonic Hall, NYC.

Miles Davis / Live At The 1963 Monterey Jazz Festival

モンタレー・ジャズ・フェスティバル・レコードが2007年に設立され、その第1弾として同年7月31日にリリースされたアルバム。ライブ演奏から44年経ってのこと。音源の著作権は主催者側にあったのだろう。マイル自叙伝②では、以下のようにマイルス自身がトニー・ウィリアムスのドラムに焚きつけられたとある。つまり、演奏内容に不満があってテープを眠らせていた訳ではないのだ。

「アンティーブで演奏した後、アメリカに戻って、8月には北カリフォルニアのサンフランシスコのちょっと南にあるモンタレーのジャズ・フェスティバルで演奏した。〈中略〉トニーはオレ達と一緒にやって、バンドを大いにたきつけた。その年の初めまで、ほとんど誰も聴いたことがなかった17歳の子供が、すべての中心になったんだ。たくさんの連中が、トニーは史上最高のドラマーになると違いないと言っていた。オレも、これだけは言える。トニーはその可能性を持っていた。そして、彼ほどすばらしい演奏をオレとした奴は、誰一人としていない。本当に恐ろしいくらいだった。それにロンやハービーやジョージだって、能なしじゃなかった。オレのバンドで、とてつもなくすばらしいことが起きているのは間違いなかった」。マイルスは8月としているが9月の間違い。翻訳した中山康樹氏も気が付かなかった。

1. Waiting For Miles
2. Autumn Leaves
3. So What
4. Stella By Starlight
5. Walkin'
6. The Theme

Miles Davis - trumpet
George Coleman - tenor saxophone
Herbie Hancock - piano
Ron Carter - bass
Tony Williams - drums

Recorded on September 20, 1963 at the Monterey Jazz Festival.