Miles Davis / Miles Smiles

このアルバムで一番印象的なのは、5曲目のフリーダム・ジャズ・ダンス。曲が始まってもウェイン・ショーターが入ってこない。普通ならば録音中止で撮り直しである。さらに、マイルスとショーターによるテーマのユニゾンで、マイルスはメロディーを省略している。確かに難しい曲。学生時代、ウッドベースのソロでこの曲の練習を繰り返したが完成には至らず。マイルスも手抜きしたのだ。

マイルス自叙伝②では、本作については「このレコードじゃ、オレ達が一所懸命新しいことを求めて、手を伸ばしていることがわかるはずだ」という短い記載しかない。撮り直しを繰り返し、失敗のない演奏をアルバムに収録することは価値がない、とも受け取れる。失敗なんて笑って済ませる話だとも言っている気がする。だから、タイトルはMiles Smilesなのだ。

1. Orbits
2. Circle
3. Footprints
4. Dolores
5. Freedom Jazz Dance
6. Gingerbread Boy

Miles Davis - trumpet
Wayne Shorter - tenor saxophone
Herbie Hancock - piano
Ron Carter - bass
Tony Williams - drums

Recorded on October 24 & 25, 1966 at Columbia 30th Street Studios, NYC.

Miles Davis / At Plugged Nickel, Chicago Vol.1 & Vol.2

1965年12月のライブ演奏が、10年以上経った76年にVol.1とVol.2の2枚のLPに分かれ、日本で先行発売された。ジャケットのデザイナーには二人の日本人の名前(吉田修一氏と田島照久氏)がある。集積回路のデザイン。12ピンのIC。NAND回路だろうか?いや、OPアンプか?そして、プラグド・ニッケルと言うシカゴのジャズクラブ。ネットで調べると、このアルバムのことしか出てこない。店名を直訳すると「接続された(金属の)ニッケル」。意味不明だが、デザイナーはニッケルから集積回路を思い付き、プラグド(接続)からワイヤーを想像したのかもしれない。

2枚組としてCD化され音が良くなった分、録音の粗さが目立つ。ドラムは床を叩いているような音。それ以上に、ウェイン・ショーターのサックスに創造性が欠ける。65年4月にマイルスは骨の移植手術をしている。同年11月のビレッジ・バンガードでの演奏で再出発を果たした。このプラグド・ニッケルが12月なので、グループとしては十分な練習機会がなかったことがうかがえる。何度も演奏してきた曲目が並び、より自由なフォーマットになっているが、メンバーがうまくかみ合わない部分が多く見られる。プラグド・カケテル(接続不十分)なのだ。

Disc 1
1. Walkin'
2. Agitation
3. On Green Dolphin Street
4. So What / Theme

Disc 2
1. 'Round Midnight
2. Stella By Starlight
3. All Blues
4. Yesterdays / Theme

Miles Davis - trumpet
Wayne Shorter - tenor saxophone
Herbie Hancock - piano
Ron Carter - bass
Tony Williams - drums

Recorded on December 22 & 23, 1965 at Plugged Nickel, Chicago.

Miles Davis / E.S.P.

ウェイン・ショーターがマイルスグループに正式に参加してすぐに、ライブアルバムMiles In Berlinが1964年9月に録音された。しかし、真の意味での「黄金クインテット」のスタートは、65年1月録音のアルバムE.S.P.と言える。トニー・ウィリアムス以外のメンバーが、それぞれ作品を作って持ち寄っていることからも明らかである。

マイルスの変遷を辿る上で最重要アルバム。だが、ジャケットはクズとしか言いようがない。自分のカミさんの写真をジャケットに使うのは、百歩譲って許せる。しかし、なぜにツーショットなのだ。タイトルE.S.P.(Extra-Sensory Perception = 遠隔認知/透視)との関連性が全く無い。しかも、マイル自叙伝②には、以下のように書かれている。

「あの頃には、オレとフランシスの関係は最悪になっていた。理由の一つは、ツアーに長い間出て、家にいなかったことだ。〈中略〉フランシスは、友達と出かけたり、自分が興味あることをやりはじめたが、オレは文句をつけなかった。オレ達はもう、十分に結婚生活を楽しんでしまった後だったんだろう。E.S.Pというレコードのジャケットの、オレが庭で彼女を見上げている写真は、とうとう彼女が出ていってしまう一週間くらい前に撮ったものだ」。一週間後を透視していたということだろうか。

1. E.S.P.
2. Eighty-One
3. Little One
4. R.J.
5. Agitation
6. Iris
7. Mood

Miles Davis - trumpet
Wayne Shorter - tenor saxophone
Herbie Hancock - piano
Ron Carter - double bass
Tony Williams - drums

Recorded on January 20, 21 & 22, 1965 at Columbia Studios, Los Angeles, CA.