Miles Davis / Bitches Brew

音楽とかジャズとかでは簡単に括れないアルバム。ふと、「時空間デザイン」という言葉が思いついた。60年代を終える時に、ニューヨークのスタジオにおいて3日間で成し遂げたデザインである。そのデザインは、50年以上経っても決して陳腐化せず、聴くたびに、体験するたびに新たな発見がある。今日、強く感じたのは、リズムというより鼓動。多くのミュージシャンがスタジオに集まり、一つの鼓動を創り上げていく。マイルス自叙伝②の中で、それに関連する興味深い個所を見つけた。

「ある作品の骨格みたいなものを考えはじめた。2ビートのコードを書き、2ビートの休止にして、1,2,3、ダダンとやる。いいか、そして4拍子目にアクセントを置くんだ。最初の小節には、コードが3つあったかもしれない。とにかくミュージシャンには、思うままに何を演奏しても良いから、今やったように、これだけはコードとして演奏しろと指示した。そのうちに、みんなも何ができるのかを理解してきて、それでうまれたのが〈ビッチェズ・ブリュー〉だった」。マイルスは鼓動という言葉を使っていないが、ビートを基本にしていたことが分かるのだ。

Disc 1
1. Pharaoh's Dance
2. Bitches Brew

Disc 2
3. Spanish Key
4. John McLaughlin
5. Miles Runs The Voodoo Down
6. Sanctuary
7. Feio

Miles Davis - trumpet
Wayne Shorter - soprano saxophone
Bennie Maupin - bass clarinet
Joe Zawinul - electric piano
Chick Corea - electric piano
Larry Young - electric piano
John McLaughlin - electric guitar
Dave Holland - bass, electric bass
Harvey Brooks - electric bass
Lenny White - drum set
Jack DeJohnette - drum set
Don Alias - congas, drum set
Juma Santos (credited as "Jim Riley") - shaker, congas
Airto Moreira - percussion, cuica
Joe Zawinul - electric piano
Billy Cobham - drum set
Mati Klarwein - illustrations

Recorded on August 19, 20 & 21, 1969 at Columbia Studio B, NYC.

Miles Davis / 1969 MILES

1969年7月25日。フランス、アンティーブ・ジャズ祭でのライブ演奏。時期的には、アルバムIn A Silent WayとBitches Brewの間に位置する。もの凄いエネルギーを蓄えて前進するマイルスがここにいる。このライブ演奏で、マイルスはそれまでの自分自身を捨て去ろうとしたのではないだろうか。アルバムは7曲で構成されているが、演奏は64分間の切れ目なしの一発勝負。

このアルバムが、日本で先行発売されたのは1993年8月。ライブから24年後、マイルスの死から2年後である。なぜにリリースに時間を要したのか。Bitches Brewを世に出したあと、ライブとは言え、Milestonesや'Round Midnightといった過去の十八番を演奏している姿を、マイルスはさらけ出したく無かったと推測できる。ディスコグラフィーによると、Milestonesはこれが最後の演奏であり、'Round Midnightは同年10月27日のローマ公演で最後にしている。

1. Directions
2. Miles Runs The Voodoo Down
3. Milestones
4. Footprints
5. 'Round Midnight
6. It's About That Time
7. Sanctuary / The Theme

Miles Davis - trumpet
Wayne Shorter - tenor saxophone, soprano saxophone
Chick Corea - electric piano
Dave Holland - acoustic bass
Jack DeJohnette - drums

Recorded on July 25, 1969 at The Festival De Juan Pins, Antibes, France.

Miles Davis / In A Silent Way

音楽というよりは、音空間、いや音宇宙とでも表現したい。マイルスがついに宇宙へ飛び出した感じだ。マイルス自叙伝②では、本作について多くのことを語っている。マイルスにとっての自信作である証拠。要約すると以下のようになる。

「ジョン・マクラフリンはオレと一緒のレコーディングは不安だと言っていたので、リラックスして、いつもクラブでやってるように、と言ってやったんだ。本当にそのとおりに、すごいことをやっちまいやがった。〈中略〉ジョー・ザヴィヌルがスタジオに持ち込んだ中の1曲がIn A Silent Wayで、リハーサルでジョーが書いたとおりに演奏してみると、たくさんのコードが雑然と重なっていて、あまり効果的とは思えなかった。オレはコードが書かれた紙を捨てさせ、全員にただメロディーを演奏し、その後もそれだけを基に演奏するように指示した。そして、すごく新鮮で美しい音楽ができあがったんだ」。

このことから、リラックスして自分自身の表現に集中し、スコアに執着せず創造性を発揮すべきというマイルスの姿勢が見えてくる。

「レコーディングを終えると、新しいバンドでツアーに出た。すばらしいバンドだったから、ちゃんとしたライブレコーディングがないのは、本当に残念だ。コロンビアは完全にミスってしまった。春から8月までツアーを続け、それからスタジオに戻ってレコーディングした。それが、〈ビッチェズ・ブリュー〉だ」。

だが、マイルスの死から2年後、1993年8月にアルバム1969 MILESが日本で先行発売された。69年7月25日、フランス、アンティーブ・ジャズ祭でのライブ演奏。マイルスの発言が事実であれば、レコーディングは内密に行われていたことになる。もしくは、「ちゃんとした」と言っているので、録音のバランスなどに不満があったのかも知れない。

1. Shhh / Peaceful
2. In A Silent Way / It's About That Time

Miles Davis - trumpet
Wayne Shorter - soprano saxophone
John McLaughlin - electric guitar
Chick Corea - electric piano
Herbie Hancock - electric piano
Joe Zawinul - organ
Dave Holland - double bass
Tony Williams - drums

Recorded on February 18, 1969 at Columbia Studios, Studio B, NYC.