Keith Jarrett / Jasmine

ピアノとベースのデュオ。インタープレイという言葉からは、デュオではないもののビル・エバンスとスコット・ラファロの数々の名演が思い浮かぶが、本作ではさらに一歩進んだ奥深さを感じる。チャーリー・ヘイデンのベースは、決して主役を演じようとしない。あくまでも脇役に徹する姿勢。一方のラファロは、ピアノの隙間に入り込むタイミングを常に計っている。良いか悪いかではなく、どちらもジャズマン、そして役者なのである。

決定的な違いは、数え切れないくらいの場数を踏んできたヘイデンの大局観。インタープレイ、時には演奏相手との一騎打ち。ヘイデンは、キース・ジャレットとどれだけ寄り添えるか、溶け合えるかしか考えていなかったはずだ。そして、キースも同じ気持ち。プロデューサーはマンフレート・アイヒャーとキース自身。溶け合って放たれたのはJasmine(ジャスミン)の香り。

1. For All We Know
2. Where Can I Go Without You
3. No Moon At All
4. One Day I'll Fly Away
5. Intro - I'm Gonna Laugh You Right Out Of My Life
6. Body And Soul
7. Goodbye
8. Don't Ever Leave Me

Keith Jarrett - piano
Charlie Haden - bass

Recorded on March 24 & 25, 2007 at Cavelight Studio, NJ.

Keith Jarrett / UP FOR IT

フランス・アンティーブ・ジャズ・フェスティバルでのライブ演奏。世間では、かなり評判の高いアルバムである。しかし、冷静に聴くと音が前に出ていない。それは録音状態ではなく、覇気をあまり感じないということ。それぞれの曲が、予定通りに終わっていく。曲が始まった瞬間に、終わらせ方を考えている。そんな気がする。ステージに立ったのだから、最高のパフォーマンスを演じなければならない。そのことが先行し、集中度に欠けている。

そんなふうに聴きながら、キース自身のライナーノーツ(翻訳)を読んだ。要約すると。「コンサート当日まで雨が降り続き、その日も雨。ゲイリーは癌治療の大手術を受けたばかり。ジャックは前年のステージで壁板にぶつかるというアクシデント。演奏前のディナーは雨の中。ゲイリーは演奏をやりたくないと言う。それでもステージに上がったら、彼のベースの近くで水漏れ。そして、短時間でのサウンド・チェック」。つまり、最悪の状態でのステージだった。そんな演奏のアルバムなので最高の出来になったはずなのだが、凍るような怖さは、ここにはない。ECMのジャケットも相変わらずの手抜き。

1. If I Were A Bell
2. Butch & Butch
3. My Funny Valentine
4. Scrapple From The Apple
5. Someday My Prince Will Come
6. Two Degrees East, Three Degrees West
7. Autumn Leaves / Up For It

Keith Jarrett - piano
Gary Peacock - bass
Jack DeJohnette - drums

Recorded on July 16, 2002 at Festival De Jazz d' Antibes, Juan Les Pins, France.

Keith Jarrett / My Foolish Heart

2007年10月にスタンダーズ・トリオ25周年記念でリリースされたアルバム。しかし、録音は2001年7月。つまり、6年以上も倉庫にしまって置いた音源である。では、なぜにリアルタイムで世に出さなかったのか。謎である。これは自分の憶測。2001年9月11日のアメリカ同時多発テロによる市場の拒否反応を恐れた。キース自身のライナーノーツに、そんなことは書いていないし、ネットで調べても事実は一切浮かんでこない。翌2002年7月にアルバムUP FOR ITを録音し、2003年にそれをリリース。本作は、リリースする機会を逸してしまい、25周年記念に狙いを定めたと思える。キースは冒頭でこう書いている。

「これは、然るべき時が現れるまでと、手元に離さず置いていたコンサート録音だ。最もメロディックに、スウィンギーに、ダイナミックに浮揚するトリオが捕らえられている。これほど、お客の首根っこを掴んで揺らしても(文字通りにそうしたかったくらいに)、オレたちのやっていることを聴けと、僕たちが言いたかった夜もない(訳:小山さち子氏)」。では、この「然るべき時」をキースはどう考えていたのか。答えてくれていない。いや、機を逸したのは、タイトルMy Foolish Heart(愚かな我が心)ということか。

Disc 1
1. Four
2. My Foolish Heart
3. Oleo
4. What's New
5. The Song Is You
6. Ain't Misbehavin'

Disc 2
1. Honeysuckle Rose
2. You Took Advantage Of Me
3. Straight, No Chaser
4. Five Brothers
5. Guess I'll Hang My Tears Out To Dry
6. Green Dolphin Street
7. Only The Lonely

Keith Jarrett - piano
Gary Peacock - bass
Jack DeJohnette - drums

Recorded on July 22, 2001 at Montreux Jazz Festival, Stravinski Auditorium.