シモコフ & テッパーマン 間章訳 / エリック・ドルフィー

1975年6月29日発行 晶文社 定価1960円。この本は、そのものずばり『エリック・ドルフィー』と題されたドルフィーの研究書である。だがしかし、清水俊彦氏と訳者の間章氏が、それぞれのエッセイを加えたことで、ドルフィーという人間像が浮かび上がっている。発行から46年の間に、新たなドルフィーの音源はほとんど発掘されなかった。それは、あまりにも凝縮された彼の演奏家としての人生だったからだろう。間章氏は、本書の中でさりげなくこう語っている。

「彼こそは本来的に即興演奏でしかない、根拠をあらかじめうばわれた音楽であるジャズを演奏家として演奏し続けるという二律背反において、見事に生きてみせた一人の演奏家なのである」。そして、以下に本書に記されたドルフィーの語録のようなものを抜粋した。

「私は自分の演奏を、調性にのっていると考えています。たしかに私は、与えられた調にある通常の音とはいえない音で演奏します。しかし私にとっては、これらの音は正しい音として聞こえるのです。私は自分が、発想のおもむくまま勝手に変えているとは決して思ってはいません。私にとっては、私の吹くひとつひとつの音は、曲のコードに関連しているのです」。

「私にとってジャズは、生活の一部のようなものなのです、それはふだん道を歩きながら、人が見たり聞いたりするものに対する反応や私の印象といっても良いくらい私には自然なものです。私はそういった反応のすべてを、私の音楽を通して、ストレートに表現することができると思っています」。

「楽器で演奏する人間は、私が演奏に対して持てたのと同じくらいの暖かい人間性と人間的な感情でもって、演奏に接するよう努めなければならないと思います。私は、私が今まで通常の方法で話すことができたのより以上のものを、楽器を通して演奏することによって表現したいのです」。

「あまりにも多くの知るべきことがあり、そして、試み、発見しなければならないことがあるのです。私は、私が今までなしとげたものすべての彼方にある〈なにか〉を、いつも聞き続けています。私には、自分が得ようと努めなければならない〈なにか〉がいつもいつもあるのです。私が音楽で成長すればする程、私の聞ける新しいものの可能性も増大するのです。まるで以前にはその存在を想像もしなかったサウンドを、私はあくことなく求め続けるようにしていつも生きています」。

Eric Dolphy / Last Date

1964年6月2日録音のスタジオライブ。「ラストデイト」ではあるが、「ラストレコーディング」ではない。このアルバムを録音した9日後の11日、パリでのセッションが録音され、タイトルUnrealized Tapesとして一時的にアルバム化された。しかし、今は完全に廃盤状態。そういう意味で、タイトルを「ラストレコーディング」としなかったのは、正解である。本作は収録された曲以上に、アルバム最後のドルフィーの肉声が注目される。

When you hear music, after it's over, it's gone in the air. You can never capture it again…「音楽は空(くう)に消え、二度と捉えることは出来ない」。ジャズの本質を捉えたメッセージ。そして、6月29日、ドルフィーは祖国に帰ることなくベルリンにて死去。このメッセージは、スタジオでの録音後に語ったと長い間思っていた。だが、児山紀芳氏によるライナーノーツには、「ドルフィーが死の3か月前にミンガスと一緒にヒルヴェルサムに来たときに残していったインタビューの一部だった」とあった。となれば、インタビュー全体を聴きたいのだが、それも空(くう)に消えてしまったようだ。

1. Epistrophy
2. South Street Exit
3. The Madrig Speaks, The Panther Walks
4. Hypochristmutreefuzz
5. You Don't Know What Love Is
6. Miss Ann - Eric's Voice

Eric Dolphy – bass clarinet, flute, alto saxophone
Misha Mengelberg – piano
Jacques Schols – double bass
Han Bennink – drums

Recorded on June 2, 1964 at VARA Studio, Radio Nederland, Hilversum, Holland.

★ 2022年6月8日に、「さくらのブログ」へ以下のコメントをいただいた。感謝。

はじめまして、Dolphyファンです。
既にご存じかも知れませんがインタビューは残っています。

Alan Saulさんのサイトに音声データ(5分28秒)とテキストが公開されています。
Dolphyの肉声が聞けます。
http://adale.org/Discographies/deRuyter.html

また、Nelsonさんが日本語訳をサイトに掲載しています。(ありがたいです。)
http://modernjazznavigator.a.la9.jp/chat/ch1181.htm
ご参考までに。

Eric Dolphy / Out To Lunch!

シモスコ&テッパーマン著(間 章訳)『エリック・ドルフィー』では、本作について次のように書いている。「ドルフィーは彼自身が書いたそのレコードのライナーノーツで、彼が感じた自由なコンセプトのもとに、ユニットの中をテーマの展開においても、また複雑なリズム・パターンによっても、自由な拍子で、自在な方向へ、動かすことができたという、曲とグループの演奏の全体のフィーリングについて語っている。このレコーディング・セッションは、その複雑なコンセプトにもかかわらず、サウンドは実に自然に響いているし、より拡大された抽象性と、のびやかさが彼のソロ演奏につけ加わっていて、美学的なインパクトも極めて満足のゆくものであった」。

所有するLPとCDには、ドルフィー自身による収録曲の紹介文はあるが、セッションについては語っていない。従って、上記のライナーノーツの出典は不明なのだが、「拡大された抽象性」とは見事な表現である。それは、ジャケットにも表れていて、WILL BE BACKの時刻は何も確約されていないのだ。

1. Hat And Beard
2. Something Sweet, Something Tender
3. Gazzelloni
4. Out To Lunch
5. Straight Up And Down

Eric Dolphy - alto saxophone (tracks 1,4,5), bass clarinet (track 2), flute (track 3)
Freddie Hubbard - trumpet
Bobby Hutcherson - vibraphone
Richard Davis - bass
Tony Williams - drums

Recorded on February 25, 1964 at Rudy Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey.