植草甚一 / バードとかれの仲間たち

1976年4月20日発行・晶文社。植草甚一には、学生の頃にハマッタ。決してジャズ評論家ではなく、ジャズ愛好家であった。つまり、ジャズが好きになってしまった植草氏の言葉が綴られている。「なってしまった」と書いたのは、彼が50歳近くになってからジャズを聴き始めたということ。彼のユニークな視点に対して、晶文社が『植草甚一/スクラップ・ブック』を企画したのは大成功だったと思う。この本は、表題通りにチャーリー・パーカーが主体となっているが、最終章はロリンズのことを書いている。面白いのは、久保田二郎氏との会話。

久保田「植草さん、貴方はチャーリー・パーカー好きじゃないでしょう」
植草「僕はパーカーは解らなかったです、みんながパーカーを聴かなくちゃ駄目だと云いました。それで一生懸命聴いたんですが、僕には解らなかった」
久保田「それは解らなかったんじゃなくて、好きじゃなかっんだ。え?そうでしょう」
植草「ええ、実はどうしても好きになれなかったんです、この本にそれは書きませんでしたけど」

植草氏は、パーカーの音楽ではなく、彼の生き方に惚れ込んでしまったのだろう。ジャズという音楽を論じるのではなく、その音楽を演じる人(ミュージシャン)にとてつもなく興味を持ったのが、植草甚一であったと、自分は分析しているのだが。

追記:この『スクラップ・ブック』には、月報の別刷りが付録されていた。No.13のこの本には山下洋輔と植草甚一との対談『新宿でジャズを聴きはじめたころ』が付いている。ジャズがきわめて熱かった時代。

植草甚一 / モダン・ジャズのたのしみ

1976年7月20日初版・晶文社。何年振りだろう、この本を開いたのは。読み始めてすぐに『モダン・ジャズを聴いた600時間』という章が出てくる。この章の冒頭を抜粋。

「昨年の夏のおわりころから、急にモダン・ジャズがすきになってしまって、毎日のようにジャズのレコードばかりかけながら、うかうかと日を送っていた。だいたいの計算だと600時間くらいジャズをきいて暮らしていたし、そのあいだレコード店にいたのが200時間くらいあった。約半年をモダン・ジャズでつぶしたのが800時間・・・」。

一日当たり800÷6÷30≒4時間半となる。そう考えると、ジャズにどっぷりという感じは受けないが、「急にモダン・ジャズがすきになってしまい」というのが植草氏らしい。この章は、1957年4月号『映画の友』に掲載された。それから10年経たない間に、この本がまとめられたことになる。つまりジャズ歴10年選手によるモダン・ジャズの本なのだ。自分はジャズを聴き始めて45年ほどだが、植草氏の足元にも及ばない。そして、帯には『ジャズ入門書』とあるが、章が進むにつれて初心者には極めて高度な内容になっていく。入門はさせてくれるが、簡単には卒業させてくれない。

Miles Davis / 文藝別冊『マイルス・デイビス』総特集 没後10年

2013年9月1日付けの自分のブログで以下のように書いた。

2001年9月30日発行 河出書房新社 定価1200円。247ページの読み応えある書籍。中でも次の2つの討論が面白い。
・後藤雅洋、中山康樹、村井康司が選ぶ決定版マイルス・ベスト10
・石川忠司、松村正人、酒井隆史が選ぶブラック派マイルス・ベスト5

ベスト10
Relaxin'
Four & More
Sorcerer (Nefertiti)
On The Corner
In A Silent Way
Bitches Brew
At Fillmore
Get Up With It
Agharta (Pangaea)
The Man With The Horn

ベスト5
1969 Miles
On The Corner
Get Up With It
Dark Magus
Doo-Bop

ベスト10に至る過程で、"Dark Magus"と"Doo-Bop"は候補に残ったものの、残念ながら外すことになった。ところが、"1969 Miles"はほとんど素通り。一方、ベスト5を選ぶ過程では、このアルバムがすんなり選ばれている。その理由が分からなかったし、そもそも、"1969 Miles"を所有していないので、早速注文。どんなアルバムなのか楽しみである。ちなみに、この文藝別冊は絶版になっている模様。もう没後22年だからか…。