木俣信 / ジャズは気楽な旋律

2014年4月15日発刊 平凡社新書 定価800円。木俣信(きまた まこと)という名前は、スイングジャーナルなどで何度も目にすることがあった。しかし、ジャズ・プロデューサーの立場として、アルバムのレビューを書くことは難しかったようだ。そんな木俣氏が本を執筆したことを知り、読んでみようと思った。サブタイトル『プロデューサーが出会った素顔の巨人たち』にも魅かれた。だが残念なことに、この本は木俣氏の仕事経歴を綴ったに過ぎない。以下は、『まえがき』より抜粋。

「永年ジャズに携わり、世界の数多くのミュージシャンたちとレコーディングという仕事を通して付き合ってきたぼくは、〈ジャズは難解〉という誤解を解きほぐし、〈ジャズってこんなに楽しい音楽なのか〉〈素晴らしい感動を与えてくれるのだ〉ということを、一人でも多くの人にわかっていただければ ― そんな思いでペンをとった」。つまり、超入門者向けの本なのである。

植草甚一 / マイルスとコルトレーンの日々

1977年2月15日初版・晶文社。ジャズ初心者向けの本ではない。マイルスとコルトレーンをかなり聴き込んでいないと、理解がかなり難しいだろう。例えば、こんなエピソードを取り上げている。

『コルトレーンのプロデューサーであったボブ・シールが、エルビンに対して「よくみんながコルトレーンはむずかしいというけれど、ぼくにはよく理解できるんだが」と言うと、エルビンは「それは、よく聴き込んだからだよ。いいかえると、きみはジョン・コルトレーン四重奏団の五番目のメンバーになったんだ」と答えた』。この文章を読んで、中級者ならばニヤリとするだろう。あとがきとして、本書の解説を清水俊彦氏が書いていて、以下はその抜粋。

「この本には、アメリカばかりでなく、イギリスやフランスのジャズ誌にものったエッセやレコード評やインタヴュー記事からのおびただしい引用がある。それだけではない。ジャズ以外のさまざまな分野の本や雑誌からの引用もふんだんにあり、そのうえ、植草さん自身の洞察力にとんだ批評はいうまでもなく、日常生活の断片までがしばしば現れてくる」。つまり、研究レポートなのだ。

植草甚一 / ぼくたちにはミンガスが必要なんだ

1976年11月発行 晶文社。植草氏は小柄であったことを初めて知った。この本には、いくつかの写真が挿入されていて、最後の写真はミンガスとのツーショット。もちろんミンガスのほうが一回りも二回りも大きいとは思っていたが、それ以上の差があったようだ。

この本は、図書館で借りて読んだのか、古本を購入して読んだのか定かではない。タイトルはミンガスになっているけれど、モンクとドルフィー、そしてミンガスの3部構成。なので、参考書として改めて購入した。2005年1月30日新装版第一刷となる。読み直す前から想定していたが、新たな驚きはほとんどなかった。その理由は簡単で、植草氏の文章を読んで、モンク、ドルフィー、ミンガスを好きなった訳ではないから。

彼らにのめり込んで行ったら、この本を通じ植草氏も好きだったということを知ったのだ。その頃、ジャズは「研究」の対象だった。過去の歴史を調べていくと新たな発見があり、聴き方が変わった。今は、娯楽の一つでしかないのかも知れない。結局のところ、ジャズ喫茶は探求の場ではなくなってしまい、衰退したのだと言える。自宅の小さいスピーカーと小音量で聴くジャズでは、見えないことが多数あるのだが…。

今必要なのは、植草氏の復刊ではない。現在のジャズを描き切れるライターの存在。中野宏昭氏の志を継ぐライターの登場を。『ぼくたちには今のジャズが必要なんだ』。