Bob Dylan / Tell Tale Signs

1989年から2006年までの4枚のアルバムOh, Mercy, World Gone Wrong, Time Out Of Mind, Modern Timesのアウトテイク・別テイクを中心に構成された『ブートレッグ・シリーズ第8集』。全27曲で、未発表ライブ5曲、サウンドトラック2曲なども含まれる。このアルバムの中で16年間の歳月が流れているし、ボツになった曲やセッションを集めているので、どうしても散漫な印象になってしまう。それは致し方ないだろう。20世紀から21世紀にかけてのディラン研究用アルバムと割り切り、録音順構成という手もあったかも知れない。それはよしとして、次の2曲が含まれたことは意義深い。

アルバムOh, Mercyから零れ落ちたDignity(尊厳)。ディランが、今なお追いかけているテーマだと思う。「多くの道、多くの危険/多くの袋小路、ぼくは湖畔まで追い詰められている/ぼくは時々考える、尊厳を見つけるために/何をしなければいけないのかと」と締め括る曲。そして、アルバムOh, Mercyに含まれた名曲Ring Them Bellsの1993年11月17日ライブ。ディランは、1989年10月から2005年11月の間に、ライブで31回しか歌っていない。その中の1つ。「鐘を鳴らせ 見えない聞こえない人たちのために/鐘を鳴らせ 泣き叫ぶ子供のために」。DignityやRing Them Bellsが、今でも重要な曲だと感じてしまうのは、逆に人間とはいつまで経っても愚かであると言うことなのだが…。

Disc 1
1. Mississippi (unreleased, Time Out Of Mind)
2. Most Of The Time (alternate version, Oh Mercy)
3. Dignity (unreleased - piano demo, Oh Mercy)
4. Someday Baby (alternate version, Modern Times)
5. Red River Shore (unreleased, Time Out Of Mind)
6. Tell Ol' Bill (alternate version, North Country Soundtrack)
7. Born In Time (unreleased, Oh Mercy)
8. Can't Wait (alternate version, Time Out Of Mind)
9. Everything Is Broken (alternate version, Oh Mercy)
10. Dreamin' Of You (unreleased, Time Out Of Mind)
11. Huck's Tune (from Lucky You soundtrack)
12. Marchin' To The City (unreleased, Time Out Of Mind)
13. High Water (For Charley Patton) (live, August 23, 2003, Niagara Falls, Ontario, Canada)

Disc 2
14. Mississippi (unreleased version 2, Time Out Of Mind)
15. 32-20 Blues (unreleased, World Gone Wrong)
16. Series Of Dreams (unreleased, Oh Mercy)
17. God Knows (unreleased, Oh Mercy)
18. Can't Escape From You (unreleased, December 2005)
19. Dignity (unreleased, Oh Mercy)
20. Ring Them Bells (live, November 17, 1993, The Supper Club, New York, NY)
21. Cocaine Blues (live, August 24, 1997, Vienna, VA)
22. Ain't Talkin' (alternate version, Modern Times)
23. The Girl On The Greenbriar Shore (live, June 30, 1992, Dunkerque, France)
24. Lonesome Day Blues (live, February 1, 2002, Sunrise, FL)
25. Miss The Mississippi (unreleased, 1992)
26. The Lonesome River (from Ralph Stanley's album Clinch Mountain Country)
27. 'Cross the Green Mountain (from the Gods and Generals soundtrack)

Recorded in 1989 - 2006.
Released on October 6, 2008.

Crosby, Stills, Nash & Young / Déjà Vu

録音は1969年後半。リリースは70年3月。高校に入学したのは72年4月。当時、軽音楽同好会なるものが高校にあって、入学後に顔を出したが、あまりにもやわな感じですぐに逃げ出した。彼らはTeach Your Childrenを盛んに練習していた。単なるコピーであることを一瞬で知ってしまったので、「つまらん」と。それだけがきっかけではなかったものの、少しずつジャズへ傾倒していった。ニール・ヤングのHelplessに自分たちの歌詞を付けて彼らがやっていれば、違う方向になったかもしれない。ということで、このアルバムは自分にとって一つの節目となったことは事実だ。

商品解説から。「60年代末、アメリカ西海岸から登場し若者たちから大きな支持を集めたクロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング。彼らは、50年代のフォークリバイバルやロックンロールの黎明期を経て〈ウッドストック〉へとつながるアメリカ文化の遺伝子を後世に残した偉大なグループである」。だからこそ、コピーには違和感を持ったのである。

1. Carry On
2. Teach Your Children
3. Almost Cut My Hair
4. Helpless
5. Woodstock
6. Deja Vu
7. Our House
8. 4 + 20
9. Country Girl (Whiskey Boot Hill / Down Down Down / Country Girl I Think You're Pretty)
10. Everybody I Love You

David Crosby - vocals, rhythm guitar
Stephen Stills - vocals, lead guitars, guitars, bass, keyboards
Graham Nash - vocals, rhythm guitar, keyboards
Neil Young - vocals, lead and rhythm guitar, keyboards, harmonica

Recorded in July - December 1969 at Wally Heider's Studio C, San Francisco and Wally Heider's Studio III, Los Angeles.

Bob Dylan / Modern Times

Modern Timesは2006年8月29日リリース。その前作"Love and Theft"は2001年9月11日のリリースで、同時多発テロが起きた日。つまり、Modern Timesには、テロに対するディランのメッセージがどこかに含まれていると考えたい。その答えの1つが、1曲目のThunder On The Mountainで登場する。歌詞の中に「壁に書かれた災いの前兆」、「今の社会はどうして冷酷になってしまったのか」、「何か悪いことが起こりそうだ、飛行機は着陸させたほうがいい」、「懺悔はすでにしたんだ」という怒りや不安をちりばめている。タイトル「山の上で轟く雷鳴」は、天からの警告なのだ。

一方で、チャップリンの映画Modern Timesも意識したのだろう。機械文明と経済至上主義を批判した作品。Workingman's Blues #2では、「労働者の唄でも歌おうじゃないか、スーツを新調し、新妻も迎えた、米と豆だけで生きていけるさ」と再出発の意気込みを示す。この曲は2006年10月から18年10月までの間に、ライブで267回も歌っている。タイトルに#2と付けたのは、「労働者=歌手」としてのディラン自身の新たな旅立ちを感じる。そして、曲はBeyond The Horizonへと繋がっていく。地平線の向こうとは、そう簡単には到達できない場所。そんなイメージを抱かせる言葉。空想もしくは理想の世界を描く対比的な曲Over The Rainbowが、ふと浮かぶ。それに対して、Beyond The Horizonは現実に対峙した曲だ。

ラストのAin't Talkin'では、単語worldが何度も出てくる。this weary world of woe(苦悩に満ち疲れ果てた世界)、the world mysterious and vague(不思議で漠然とした世界)。最後にはIn the last outback, at the world's end(最後の奥地の中、世界の果てに)と。テロに対してディランが2つ目に漏らした言葉。世界の終わりを暗示しているようだ。

付属しているDVDはオマケのようなもの。だが、その中でアルバムWorld Gone Wrongのジャケットの場所が判明。ロンドン北部のカムデンという場所のレストラン。オマケながら、ディランはModern Times(今の時代)を彷徨い、言葉を探していることに気づかされるDVDでもある。

1. Thunder On The Mountain
2. Spirit On The Water
3. Rollin' And Tumblin'
4. When The Deal Goes Down
5. Someday Baby
6. Workingman's Blues #2
7. Beyond The Horizon
8. Nettie Moore
9. The Levee's Gonna Break
10. Ain't Talkin'

Bob Dylan - vocals, guitar, harmonica, piano
Denny Freeman - guitar
Tony Garnier - bass guitar, cello
Donnie Herron - steel guitar, violin, viola, mandolin
Stu Kimball - guitar
George G. Receli - drums, percussion

Recorded in February 2006.