高田渡 / 石

このアルバムがリリースされた1973年6月は、都立大泉高校の2年生だった。少しずつ日本のフォークに飽きて来て、ジャズに傾き始めた頃。もし、本作をリアルタイムで聴いていれば、「高田渡を除いた日本のフォークに飽きて・・・」となったかも知れない。渡が口ずさむように歌う一つ一つの言葉が、目の前に積み上がっていく感じだ。

高田渡は「詩人」と言われることが多かった。しかし、このアルバムに収録された全ての曲において、渡自身は1曲も「詩」を書いていない。つまり、「詩」を「歌」にしてしまう「歌人」と言った方がよいのかも知れない。渡は、6曲目の山之内貘作詞の「石」をアルバムタイトルにした。「季節 季節が 素通りする」と始まる曲。この一節が本作のコンセプトなのだろう。

1. ひまわり / バーナード・フォートレスト作詞 中島完訳詞 高田渡作曲
2. 夜の灯 / 高木護作詞 高田渡作曲
3. 私は私よ / ジャック・ブレベール作詞 小笠原豊樹訳詞 高田渡作曲
4. ものもらい / 山之内貘作詞 高田渡作曲
5. 私の青空 / 堀内敬三作詞 ドナルド・ソン作曲
6. 石 / 山之内貘作詞 高田渡作曲
7. いつになったら / 金子光晴作詞 高田渡作曲
8. 丘を越えて(インストルメンタル) / 古賀政男作曲
9. 当世平和節 / 添田知道作詞 アメリカ民謡
10. 正午 / 野見山杉太郎作詞 高田渡作曲
11. 火吹竹 / 高田豊作詞 高田渡作曲

高田渡 - acoustic guitar, flat mandolin, vocal
江藤勲 - electric bass
板庭省吾 - 5 string banjo
ジミー竹内 - drums
中川イサト - acoustic guitar, slide guitar, electric guitar, dobro mandolin
中川五郎 - accordion
松本隆 - drums
原田政長 - wood bass
柳田ヒロ - keyboard
薗田憲一とディキシー・キングス
ウォツシュボーン・カントリーバンド
岩井宏・加川良・武川雅寛・友部正人・中川イサト・中川五郎・田中汪臣 - backing vocal

高田渡 / 系図

高田渡。2005年4月16日午前1時22分、入院先の北海道釧路市の病院で心不全により死去。56歳没。本作での高田渡の作詞は「鉱夫の祈り」のみ。一曲一曲に重みがある。その中で、自分にそのまま当てはまってしまうのが5曲目の「酒」。「一杯飲み屋で 安酒をあおって それで 毎日毎日が 忘れられるというなら ・・・」。

1. 夜風のブルース
2. 69
3. 出稼ぎのうた
4. 長屋の路地に
5. 酒
6. 手紙を書こう
7. 系図
8. ミミズのうた
9. 告別式
10. 鎮静剤
11. 鉱夫の祈り
12. あしたはきっと

高田渡 - 作曲、唄、ギター

1. 詞 - ラングストン・ヒューズ / 中川イサト - guitar, 細野晴臣 - wood bass
2. 詞 - 金子光晴
3. 詞 - 小幡周太郎 / 武川雅寛 - fiddle
4. 詞 - 木山捷平 / 細野晴臣 - honky-tonk piano, 村瀬雅美 - bass, シバ - blues harp, 若林純夫 - blues harp, 村上律 - banjo
5. 詞 - 細田幸平 / 中川イサト - guitar
6. 詞 - 永山則夫
7. 詞 - 三木卓 / 細野晴臣 - wood bass, 武川雅寛 - fiddle, 池田光夫 - bandoneon
8. 詞 - 永山則夫
9. 詞 - 山之口貘 / 若林純夫 - guitar, 村瀬雅美 - bass, 細野晴臣 - honky-tonk piano, シバ - blues harp
10. 原詩 - ローラッサン / 訳詞 - 堀口大学 /村上律 - wood banjo
11. 詞 - 高田渡 / 中川イサト - guitar, 駒沢裕城 - slide guitar, 武川雅寛 - fiddle
12. 詞・曲・唄・ギター - いとうたかお / 村瀬雅美 - bass, 若林純夫 - drums & chorus, シバ - blues harp, 村上律 - banjo, ムサシノ・グリークラブ - chorus, 武蔵野カズー部隊 - kazoo

発売 1972年4月25日

高田渡 / ごあいさつ

このアルバムがリリースされたのは、1971年6月。1949年1月生まれの渡であるから、この時、まだ22歳。大阪万博の翌年。高度経済成長第二期の真っただ中である。「ケーザイ」という軸とは、まったく違う軸で唄を歌い続けてきた渡。それは決して、高田渡と言う「私的」ではなく、渡が見ていた庶民の生活を唄に写してきたこと。

当時、このアルバムのコーヒーブルースを聴いて三条の「イノダ」へ行かなくちゃ、と思った。そして、ワタル的な「生活の柄」。どの曲も唄い放されて終わる。唄い終わるのではなく、唄い放つ。聴き手は、放された言葉を掴み取って、自分の中に溜めざるを得ない。溜めた瞬間、渡とつながってしまう。

* * * * *

生活の柄(作詞:山之口貘 作曲:高田渡)

歩き疲れては 夜空と陸との 隙間にもぐりこんで
草に埋れては 寝たのです 処かまわず寝たのです

1. ごあいさつ
2. 失業手当
3. 年齢・歯車
4. 鮪に鰯
5. 結婚
6. アイスクリーム
7. 自転車にのって
8. ブルース
9. おなじみの短い手紙
10. 珈琲不演唱(コーヒーブルース)
11. 値上げ(変化)
12. 夕焼け
13. 銭がなけりゃ
14. 日曜日
15. しらみの旅
16. 生活の柄

高田渡 - guitar (tracks 1,3-6,8-12,14,16), flat mandolin (tracks 2,7)

はっぴいえんど (tracks 2,7,13,15)
大滝詠一 - guitar, chorus
鈴木茂 - guitar, chorus
細野晴臣 - bass, piano, chorus
松本隆 - drums, chorus

池田光夫 - bandoneon (tracks 4,9,14)
石田順二 - fiddle (tracks 13,16)
中川イサト - guitar (tracks 13,15)
木田高介 - piano (track 5)
岩井宏 - banjo (tracks 13,16), chorus (tracks 7,13,16)
加川良 - chorus (tracks 7,13,16)
遠藤賢司 - chorus (track 13)

発売 1971年6月1日