植草甚一 / ジャズの前衛と黒人たち

1967年5月10日発行 晶文社 定価1200円。423ページ。非常に小さい活字で、隙間なくぎっしりと詰まっている。以下の40章から構成。各章が10ページ程度でまとまっているため、気になる章から読み進められる。『あとがき』で植草甚一氏はこう書いている。「ぼくはジャズは勉強なのだと確信しているし、ジャズを聴いているとき一番いいことは、なにかこうほかの勉強にとりかかりたいという強烈な推進力をあたえてくれることだ」。同感! しかし、帯にある『ジャズ・エリート必読!』のキャッチコピーは、ちょっと威圧的な表現で同意できないのだ。

1. 黒人を排斥するアメリカのジャズ界
2. 1962年1月のことだった
3. たまにはアンドレ・プレヴィンやデイブ・ブルーベックも聴いてみよう
4. カナダのジャズ・ファンが面白い見かたをしている
5. チャーリー・パーカーと仲間たちの話をしよう
6. マイルス・デイビスについてケネス・タイナンが論じた
7. ビル・エバンスとセシル・テイラーとの間にあるものを考えてみよう
8. ニューポートという煙草を買った日は、やっぱりジャズに縁があった
9. 雨降りなので、家にいてフランスのジャズ雑誌を読もう
10. ヨーロッパで四人の黒人ミュージシャンが生きかたについて考えた
11. ある黒人学生がブルースにふれて自分の気持をさらけだした
12. ミンガスのファイブ・スポット事件について
13. モンタレー・ジャズ祭でミンガスが真価を発揮した
14. ハーレムの暴動にふれながら最近の話題へ
15. 黒いリアリズムとユーモアが映画やジャズにも入りこんできた
16. アート・ブレイキーの「ゴールデン・ボーイ」とサミー・デイビスのこと
17. めくらのトランペット奏者を主人公にした「一滴の忍耐」というジャズ小説の話
18. ESPディスクからファッグスの「処女林」という変なものが発売された
19. レナード・フェザーがジャズ界にも「エスタブリッシュメント」があるというのだが
20. オーネット・コールマンのカムバックとジャズの「十月革命」をめぐって
21. 五人の批評家が前衛ジャズについて話合った
22. オーネット・コールマンにたいする理解と誤解について
23. 前衛ジャズにいい味方がついた
24. ESPディスクという前衛ジャズ専門のレコードが出はじめた
25. ESPディスクのアルバート・アイラーには興奮しちゃった
26. エリック・ドルフィの死と「ジャズの十月革命」
27. フランスでも前衛ジャズやアーチー・シェップが話題になりだした
28. 「ジャズ・マガジン」の前衛ジャズ特集をめぐって
29. 前衛ジャズを聴きに行ったフランスのファンの愉快な話
30. 「ヴァラエティ」誌の前衛ジャズ事件をめぐって
31. ESPグループの内部の声を聴いてみよう
32. ニュー・ブラックミュージックとマルカムXの自伝をめぐって
33. 「ダウン・ビート」増刊号と前衛ジャズの対談記事を研究してみよう
34. グリニッチ・ビレッジの新聞を拾い読みしたあとで
35. ブラック・ナショナリズムとジャズをめぐる討論が行われた
36. 「響きと怒り」と「ニュー・レフト・レビュー」に出た前衛ジャズ論について
37. サン・ラの「太陽中心世界」とESPディスクの反響のありかた
38. 前衛ジャズがフランス映画とスウェーデン映画に使ってあった
39. ロンドンにおける最近のオーネット・コールマンと再認識のされかた
40. コルトレーンの演奏をナマで聴いてみて

植草甚一 / マイルスとコルトレーンの日々

1977年2月15日初版・晶文社。ジャズ初心者向けの本ではない。マイルスとコルトレーンをかなり聴き込んでいないと、理解がかなり難しいだろう。例えば、こんなエピソードを取り上げている。

『コルトレーンのプロデューサーであったボブ・シールが、エルビンに対して「よくみんながコルトレーンはむずかしいというけれど、ぼくにはよく理解できるんだが」と言うと、エルビンは「それは、よく聴き込んだからだよ。いいかえると、きみはジョン・コルトレーン四重奏団の五番目のメンバーになったんだ」と答えた』。この文章を読んで、中級者ならばニヤリとするだろう。あとがきとして、本書の解説を清水俊彦氏が書いていて、以下はその抜粋。

「この本には、アメリカばかりでなく、イギリスやフランスのジャズ誌にものったエッセやレコード評やインタヴュー記事からのおびただしい引用がある。それだけではない。ジャズ以外のさまざまな分野の本や雑誌からの引用もふんだんにあり、そのうえ、植草さん自身の洞察力にとんだ批評はいうまでもなく、日常生活の断片までがしばしば現れてくる」。つまり、研究レポートなのだ。

植草甚一 / ぼくたちにはミンガスが必要なんだ

1976年11月発行 晶文社。植草氏は小柄であったことを初めて知った。この本には、いくつかの写真が挿入されていて、最後の写真はミンガスとのツーショット。もちろんミンガスのほうが一回りも二回りも大きいとは思っていたが、それ以上の差があったようだ。

この本は、図書館で借りて読んだのか、古本を購入して読んだのか定かではない。タイトルはミンガスになっているけれど、モンクとドルフィー、そしてミンガスの3部構成。なので、参考書として改めて購入した。2005年1月30日新装版第一刷となる。読み直す前から想定していたが、新たな驚きはほとんどなかった。その理由は簡単で、植草氏の文章を読んで、モンク、ドルフィー、ミンガスを好きなった訳ではないから。

彼らにのめり込んで行ったら、この本を通じ植草氏も好きだったということを知ったのだ。その頃、ジャズは「研究」の対象だった。過去の歴史を調べていくと新たな発見があり、聴き方が変わった。今は、娯楽の一つでしかないのかも知れない。結局のところ、ジャズ喫茶は探求の場ではなくなってしまい、衰退したのだと言える。自宅の小さいスピーカーと小音量で聴くジャズでは、見えないことが多数あるのだが…。

今必要なのは、植草氏の復刊ではない。現在のジャズを描き切れるライターの存在。中野宏昭氏の志を継ぐライターの登場を。『ぼくたちには今のジャズが必要なんだ』。