富樫雅彦 / Spiritual Nature

自然との対話を題材にした富樫の代表的なアルバム。1975年スイングジャーナル誌ジャズ・ディスク大賞「金賞」、「日本ジャズ賞」、「最優秀録音賞」の三冠受賞。いまさら、書くべきことは何もないので、LPとCDのライナーノーツから富樫のメッセージの部分を抜粋した。

LPは清水俊彦氏の解説。「この組曲は5曲なら成っているが、ほとんど切れ目なしに演奏されている。沈黙と空間的な広がりを強調したザ・ビギニングは、生物が動き出すまえの一日のはじまりである。富樫自身の説明によれば、サックスは風、ベースは大地の鼓動、パーカッションは過去から未来へ向かって語りかける石、金属楽器は露のきらめきを表すというが、それらのメロディーや音には、日本人なら誰もが胸の奥にしまっているあの懐かしい響がある」。

CDは原田和典氏(2014年12月付け)で、リサイタル前のスイングジャーナル誌の取材で富樫が述べたことを書いている。「今度やろうとする音楽においては、4ビートとかジャズというものは、僕たちの音楽のほんの一部の要素でしかないことをぜひ理解してもらいたい。ひとつのスタイルや形式にこだわったり、ひとつのスタイルでしかやれないというのでは、僕は窒息してしまう。豪華に楽器が響いているだけでは、音楽は深くないと思う」。

富樫自身が、このアルバムについて十分に語っているのだ。

1. The Beginning
2. Moving
3. On The footpath(畦道にて)
4. Spiritual Nature
5. Epilogue

渡辺貞夫 - flute, sopranino, alto saxophone
鈴木重雄 - flute, soprano saxophone
中川昌三 - flute, bass flute
佐藤充彦 - piano, marimba, glockenspiel
翠川敬基 - cello, bass
池田芳夫 - bass
富樫雅彦 - percussion, celesta
中山正治、豊住芳三郎、田中昇 - percussion

Tracks 1, 2, 3 & 4
録音 1975年4月9日 / 新宿厚生年金会館小ホール

Track 5
録音 1975年4月29日 / 東京・ビクタースタジオ

富樫雅彦 / Song For Myself

全4曲、富樫雅彦の作品。富樫と渡辺貞夫、富樫と佐藤允彦、富樫と富樫、富樫と菊池雅章の一騎打ちの戦い。3曲目は多重録音である。富樫が叩きだす音は、空気を切り裂くのではなく、粘性のある空気から湧き出てくる感じだ。その湧き出てくる時間さえ感じ取れる。粘りのある音。それがジャケットに現れている。そして、蝶。ツマキチョウのオスだろうか。

富樫は蝶の収集家としても知られていた。アルバムThe Face Of Percussion(1980年8月録音)のジャケットは富樫自身が西表島で撮影したアオスジアゲハ。このアルバムは全8曲が富樫一人による多重録音である。つまり、Song For Myselfを発展させたのがソロアルバムRINGS(廃盤状態で残念ながら聴いたことがない)。集大成がThe Face Of Percussionと言えるだろう。なお、Song For Myselfは、1974年スイングジャーナル誌ジャズ・ディスク大賞「日本ジャズ賞」を受賞している。

1. Haze
2. Fairy-Tale
3. Song For Myself
4. Song For My Friend

Track 1
富樫雅彦 - drums, percussion
渡辺貞夫 - flute
Recorded on October 10, 1974 at Victor Studio, Tokyo.

Track 2
富樫雅彦 - drums, percussion
佐藤允彦 - piano
Recorded on September 23, 1974 at Victor Studio, Tokyo.

Track 3
富樫雅彦 - drums, percussion
Recorded on September 30, 1974 at Victor Studio, Tokyo.

Track 4
富樫雅彦 - drums, percussion
菊地雅章 - piano
Recorded on July 25, 1974 at Victor Studio, Tokyo.

富樫雅彦 / 双晶

LPのライナーノーツを担当した副島輝人氏が次のように紹介している。《富樫・佐藤は全くのフリー・フォームで、テーマもキイも決めない。任意に音を出し初め、反応し合っていく。360度の自由なアドリブと、根源的に完璧なインタープレイがそこにある。事実、二人は全く何の打ち合わせもなくステージに上がった。「そろそろ演ろうか?」「ウン」演奏後、何人かの聴衆から、「どのくらい練習したんですか?」と質問があった。佐藤は笑いながら答えた。「四年前、ESSGの頃、たっぷり練習しました」》。

ESSGとはExperimental Sound Space Group(実験的音響空間集団)のことで、その四年前、富樫はまだ下半身不随でなかった。その後、二人の間には空白の時が流れ、富樫は新たな演奏スタイルで、このライブに臨んだのである。「何の打ち合わせもなく」が事実であれば、このデュオは実験に入る前のチューニングとでも言うしかない。LP全体で30分余り。50分を超える完全盤CDがリリースされているが、そんなにも長くチューニングを聴く必要はないのだ。

1. 輝き - Radiance
2. 再び活発に - Renovation
3. 往事を回想して - Reminisce

佐藤允彦 - piano
富樫雅彦 - percussion

録音 1973年7月7日 / アートシアター新宿文化劇場