富樫雅彦 / Story Of Wind Behind Left

ジャズという概念を超えてしまった富樫。緊張感とかビートとかではなく「鼓動」とでも呼びたい。このアルバムの中心は、言うまでもなく打楽器パーカッション。それに弦楽器のベースとセロが絡んでくる。さらに、ソプラノサックスが場に変化を与える。限られた楽器構成で、曲名を想起させるようなストリーが進行していく感じだ。それは、5人の「鼓動」によるもの。

ジャケットには英語のタイトルが記されているが、ライナーノーツにはタイトルを『風の遺した物語』としてある。そして、富樫の作品であるすべての収録曲は、日本語と英語の曲目が併記。日本語のタイトルが先にあり、海外でも通じるための英語の記載だったのだろう。一時期、本作はオンデマンドでCD-Rを発売していたようだが、そのサービスは終わっていて、完全に廃盤状態。風は音源を遺してくれなかった。そして、このアルバムを創り上げた5人のうち、2人はすでに他界。ライナーノーツを担当した3人も他界してしまった。

高木元輝 - 2002.12.11 (aged 63) / 富樫雅彦 - 2007.8.22 (aged 67)
野口久光 - 1994.6.13 (aged 84) / 清水俊彦 - 2007.5.21 (aged 78) / 内田修 - 2016.12.11 (aged 87)

1. 風の来る予感 - Premonition Of Wind's Coming
2. さらなる出会い - Revnion
3. それから - And Then
4. 身の上話 - Life Story Of Wind
5. 通りすぎてゆくもの - Those Passing Things
6. そしてまた来るもの - Things Will Come Again

富樫雅彦 - percussion (tracks 1-5), bells (track 6)
高木元輝 - percussion (tracks 1,4,6), soprano saxophone (tracks 2,5)
豊住芳三郎 - percussion (tracks 1-5), tom tom (track 6)
池田芳夫 - bass (tracks 1-3)
翠川敬基 - bass (track 5), cello (tracks 1-4,6)

Recorded on September 2, 3 & 5, 1975.

富樫雅彦 / Spiritual Nature

自然との対話を題材にした富樫の代表的なアルバム。1975年スイングジャーナル誌ジャズ・ディスク大賞「金賞」、「日本ジャズ賞」、「最優秀録音賞」の三冠受賞。いまさら、書くべきことは何もないので、LPとCDのライナーノーツから富樫のメッセージの部分を抜粋した。

LPは清水俊彦氏の解説。「この組曲は5曲なら成っているが、ほとんど切れ目なしに演奏されている。沈黙と空間的な広がりを強調したザ・ビギニングは、生物が動き出すまえの一日のはじまりである。富樫自身の説明によれば、サックスは風、ベースは大地の鼓動、パーカッションは過去から未来へ向かって語りかける石、金属楽器は露のきらめきを表すというが、それらのメロディーや音には、日本人なら誰もが胸の奥にしまっているあの懐かしい響がある」。

CDは原田和典氏(2014年12月付け)で、リサイタル前のスイングジャーナル誌の取材で富樫が述べたことを書いている。「今度やろうとする音楽においては、4ビートとかジャズというものは、僕たちの音楽のほんの一部の要素でしかないことをぜひ理解してもらいたい。ひとつのスタイルや形式にこだわったり、ひとつのスタイルでしかやれないというのでは、僕は窒息してしまう。豪華に楽器が響いているだけでは、音楽は深くないと思う」。

富樫自身が、このアルバムについて十分に語っているのだ。

1. The Beginning
2. Moving
3. On The footpath(畦道にて)
4. Spiritual Nature
5. Epilogue

渡辺貞夫 - flute, sopranino, alto saxophone
鈴木重雄 - flute, soprano saxophone
中川昌三 - flute, bass flute
佐藤充彦 - piano, marimba, glockenspiel
翠川敬基 - cello, bass
池田芳夫 - bass
富樫雅彦 - percussion, celesta
中山正治、豊住芳三郎、田中昇 - percussion

Tracks 1, 2, 3 & 4
録音 1975年4月9日 / 新宿厚生年金会館小ホール

Track 5
録音 1975年4月29日 / 東京・ビクタースタジオ

富樫雅彦 / Song For Myself

全4曲、富樫雅彦の作品。富樫と渡辺貞夫、富樫と佐藤允彦、富樫と富樫、富樫と菊池雅章の一騎打ちの戦い。3曲目は多重録音である。富樫が叩きだす音は、空気を切り裂くのではなく、粘性のある空気から湧き出てくる感じだ。その湧き出てくる時間さえ感じ取れる。粘りのある音。それがジャケットに現れている。そして、蝶。ツマキチョウのオスだろうか。

富樫は蝶の収集家としても知られていた。アルバムThe Face Of Percussion(1980年8月録音)のジャケットは富樫自身が西表島で撮影したアオスジアゲハ。このアルバムは全8曲が富樫一人による多重録音である。つまり、Song For Myselfを発展させたのがソロアルバムRINGS(廃盤状態で残念ながら聴いたことがない)。集大成がThe Face Of Percussionと言えるだろう。なお、Song For Myselfは、1974年スイングジャーナル誌ジャズ・ディスク大賞「日本ジャズ賞」を受賞している。

1. Haze
2. Fairy-Tale
3. Song For Myself
4. Song For My Friend

Track 1
富樫雅彦 - drums, percussion
渡辺貞夫 - flute
Recorded on October 10, 1974 at Victor Studio, Tokyo.

Track 2
富樫雅彦 - drums, percussion
佐藤允彦 - piano
Recorded on September 23, 1974 at Victor Studio, Tokyo.

Track 3
富樫雅彦 - drums, percussion
Recorded on September 30, 1974 at Victor Studio, Tokyo.

Track 4
富樫雅彦 - drums, percussion
菊地雅章 - piano
Recorded on July 25, 1974 at Victor Studio, Tokyo.