富樫雅彦 / AL-ALAPH

総勢17名。その中に、ベースとドラムが2人ずつという変則構成。もちろん、富樫雅彦のパーカッションの他にである。さらに、郵便貯金会館ホールでのライブ演奏。つまり、入念な準備のもとでの壮大な実験的録音と言えるだろう。ライナーノーツで、野口久光氏は「このコンサートが1980年の最も記憶すべきイベントであると同様に、このアルバムもまたこの年の最も重要な作品となることは疑いない」と書いている。

反論する気はないが、あくまでも実験的な意味での重要な作品と言わざるを得ない。複数の打楽器やベースの配置の必然性が、表現できているとは思えないからだ。かつて2枚組LPで発売されたが、CDならば1枚に収まる収録時間。実験が成功だったか失敗だったかは、演奏側、観客側、そしてアルバムを聴く側で違うだろう。だが、記録として残していく必要はある。にもかかわらず、未だにCD化されておらず、置き忘れてしまったアルバム。AL-ALAPH(アル・アラーフ)は、ギリシャの伝説に出てくる架空の星の名前らしい。アルバムそのものが、架空のものとなってしまった。

1. Al-Alaph (Opening)
2. Wind
3. Street
4. Lonely
5. Hole
6. Al-Alaph (Closing)

富樫雅彦 - percussion

Improvisation Jazz Orchestra
佐藤允彦 - acoustic piano, electric piano
井野信義 - bass
鈴木勲 - bass
中川昌三 - soprano saxophone, alto flute
佐藤秀也 - soprano saxophone, alto saxophone
梅津和時 - soprano saxophone, alto saxophone, bass clarinet
加藤久鎮 - soprano saxophone, tenor saxophone
砂原俊三 - baritone saxophone
佐藤春樹, 粉川忠範 - trombone
庄州次郎, 小宮一雄, 服部勝二 - trumpet, fluegelhorn
伊藤比呂志 - electric violin
高木幹晴, 宮内俊郎 - drums

録音 1980年4月30日 / 郵便貯金会館ホール

富樫雅彦 / Kizashi

『兆(きざし)』。1980年の当時、富樫と山下がデュオで演奏するなんて考えられなかった。大きな枠では言えば、もちろんどちらもジャズ。すなわち即興演奏。しかし、簡潔に言えば「緊張感の富樫」と「スピード感の山下」では、接点を見いだすのは極めて難しい。それを仕掛けたのはスイングジャーナル元編集長の児山紀芳氏(2019年2月3日死去、82歳)。

このアルバムは、それぞれが相手の得意技を引き出そうと前に出たり後ろに下がったりして、不均衡の調和を見出している。この「不均衡の調和」こそが、ジャズの醍醐味かもしれない。それは、それぞれの曲の中で、一瞬にして現れ、一瞬にして消えていく。

1. Action
2. May Green
3. Nostalgia
4. Feelin' Spring
5. Duo Dance
6. We Now Singing

山下洋輔 - piano
富樫雅彦 - percussion

録音 1980年4月15, 16, 17日 / 東京音響ハウス

富樫雅彦 / Valencia

富樫と加古のデュオ。非常に高いに緊張感が漂い、いわゆるインタープレイなどと言う言葉では片づけられない。太鼓から発せられる一つのパルス、ピアノの鍵盤から弾かれる一音。もし、この録音に立ち会っていたら、自分は凍り付いていたのではないだろうか。二人は一瞬の隙を見せないし、聴き手に一瞬の隙も与えてくれない。

ラスト曲、加古の作品によるSpring Will Comeで、ようやく聴き手を解放してくれる。「自分たちのジャズを最後まで聞いてくれてありがとう」というメッセージのようにも思えてくる。

1. Valencia
2. How Are You
3. Snow Night
4. Blast
5. Spring Will Come

加古隆 - piano
富樫雅彦 - percussion

録音 1980年1月22, 23日 / 東京音響ハウス