Miles Davis / In A Silent Way

音楽というよりは、音空間、いや音宇宙とでも表現したい。マイルスがついに宇宙へ飛び出した感じだ。マイルス自叙伝②では、本作について多くのことを語っている。マイルスにとっての自信作である証拠。要約すると以下のようになる。

「ジョン・マクラフリンはオレと一緒のレコーディングは不安だと言っていたので、リラックスして、いつもクラブでやってるように、と言ってやったんだ。本当にそのとおりに、すごいことをやっちまいやがった。〈中略〉ジョー・ザヴィヌルがスタジオに持ち込んだ中の1曲がIn A Silent Wayで、リハーサルでジョーが書いたとおりに演奏してみると、たくさんのコードが雑然と重なっていて、あまり効果的とは思えなかった。オレはコードが書かれた紙を捨てさせ、全員にただメロディーを演奏し、その後もそれだけを基に演奏するように指示した。そして、すごく新鮮で美しい音楽ができあがったんだ」。

このことから、リラックスして自分自身の表現に集中し、スコアに執着せず創造性を発揮すべきというマイルスの姿勢が見えてくる。

「レコーディングを終えると、新しいバンドでツアーに出た。すばらしいバンドだったから、ちゃんとしたライブレコーディングがないのは、本当に残念だ。コロンビアは完全にミスってしまった。春から8月までツアーを続け、それからスタジオに戻ってレコーディングした。それが、〈ビッチェズ・ブリュー〉だ」。

だが、マイルスの死から2年後、1993年8月にアルバム1969 MILESが日本で先行発売された。69年7月25日、フランス、アンティーブ・ジャズ祭でのライブ演奏。マイルスの発言が事実であれば、レコーディングは内密に行われていたことになる。もしくは、「ちゃんとした」と言っているので、録音のバランスなどに不満があったのかも知れない。

1. Shhh / Peaceful
2. In A Silent Way / It's About That Time

Miles Davis - trumpet
Wayne Shorter - soprano saxophone
John McLaughlin - electric guitar
Chick Corea - electric piano
Herbie Hancock - electric piano
Joe Zawinul - organ
Dave Holland - double bass
Tony Williams - drums

Recorded on February 18, 1969 at Columbia Studios, Studio B, NYC.

Miles Davis / Water Babies

1976年末にリリースされた未発表作品集。前半3曲がアルバムNefertitiと同時期、後半3曲がアルバムFilles De Kilimanjaroの後に録音。今なら新たな音源発掘となるだろうが、アルバムAghartaとPangeaのリリース後、つまりマイルスの一時的な引退時期の発売なので、商業的な匂いがプンプンするアルバム。

だが、演奏は余り物ではない。1960年代後半の変貌するマイルスをしっかり捉えている。問題はジャケットのイラスト。このアルバムを含めてマイルスの数枚のジャケットは、明らかにロックを意識している。安売りの感じだ。決して当時のロックのジャケットが貧相だったという訳ではなく、安易に迎合したと言いたい。タイトル曲Water Babiesの連想で、黒人の子供達が消火栓で水遊びはないだろう。

1. Water Babies
2. Capricorn
3. Sweet Pea
4. Two Faced
5. Dual Mr. Anthony Tillmon Williams Process
6. Splash

Tracks 1, 2 & 3
Miles Davis - trumpet
Wayne Shorter - tenor saxophone, soprano saxophone
Herbie Hancock - piano
Ron Carter - bass
Tony Williams - drums
Recorded on June 7, 13 & 23, 1967 at Columbia 30th Street Studio, NYC.

Tracks 4, 5 & 6
Miles Davis - trumpet
Wayne Shorter - tenor saxophone, soprano saxophone
Chick Corea - electric piano
Herbie Hancock - electric piano
Dave Holland - bass
Tony Williams - drums
Recorded on November 11, 1968 at Columbia Studio B, NYC.

Miles Davis / Filles De Kilimanjaro

ちょうど8年前の2013年8月25日(日)、このアルバムについて以下のように書いた。数年間、戸井十月氏の仕事を手伝ったので、その時のブログを残しておく。ちなみに、ジャケットは録音当時に結婚したBetty Mabry(ベティ・メイブリー)であり、5曲目Mademoiselle Mabryは彼女の作品とされている。そして、町田Nica'sはライブハウスとしてその後復活した。

* * *
「戸井十月の新たな旅立ちを見送る会」に参列してきた。帰りに大音量でジャズが聴きたくなり、四谷の『いーぐる』へ行きたかったが、日曜日はお休み。そこで、町田に出てNica'sを目指した。事前にホームページで調べたら、9月一杯で一旦閉めるとあった。ならば、なおさらJBL C34の音が聴きたくなった。ところが、ビル入り口の看板に電気が入っていない。いやな予感がしたが、店の3Fまで階段を上がった。案の定、鉄の扉には鍵がかかっていたのだ。彷徨えるジャズオヤジ。結局は、自宅で小音量のマイルス。

Miles In The Sky以降のエレクトリック・マイルスは、大音量で聴かなければならない。なぜなら、マイルス自身がロックに打ち勝つために8ビートや電気楽器を導入したのだから。だが、本アルバムがロック的かと言うと、決してそんなことはない。民族音楽やフォーク的な要素が盛り込まれている。そして、ピアノとベースは曲によってメンバーを変えている。つまり、次へ進むための実験的アルバムと位置付けることができる。ジャケットのデザインも、方向性がまだ定まっていないことを暗示しているようだ。

1. Frelon Brun
2. Tout De Suite
3. Petits Machins
4. Filles De Kilimanjaro
5. Mademoiselle Mabry
6. Tout De Suite [alternate take]

Tracks 1, 2, 4 & 6
Miles Davis - trumpet
Wayne Shorter - tenor saxophone
Herbie Hancock - Fender Rhodes electric piano
Ron Carter - electric bass
Tony Williams - drums
Recorded on June 19 & 20, 1968 at Columbia 30th Street Studio, NYC.
Recorded on June 21, 1968 at Columbia Studios, Studio B, NYC.

Tracks 3 & 5
Miles Davis - trumpet
Wayne Shorter - tenor saxophone
Chick Corea - piano, RMI electra-piano
Dave Holland - double bass
Tony Williams - drums
Recorded on September 24, 1968 at Columbia Studios, NYC.