森山威男 / 森

ライナーノーツで、森山自身が父親のことを書いている。『森のように静かだった父のこと。〈中略〉高校生のとき、親をだまして金をせしめ、パチンコをした。玉をはじいている俺の後ろから「この台は出るか」と声がした。片手に玉を持った父が隣の台に座った。二度と親をだますまいと思った。〈中略〉70歳を過ぎたとき、父が言った。「俺は歯医者には向いていないような気がする」「いまさら」と思った。〈中略〉80歳を過ぎたとき、無口な父が力強く言った。「威男!今からでも遅くはない。頑張れば二人で立派な狸になれる」分からん。入院中の父の耳元で「赤とんぼ」を歌ってあげた。静かだった。森のように。』

このアルバム『森』と続編アルバム『山』は、同じメンバーでの同日録音。『森』は重量感のある奥深い印象を与える。スイングジャーナル選定ゴールド・ディスク。いや、それ以上に存在感のアルバムである。

1. The Immigrant
2. Gratitude
3. In A Sentimental Mood
4. The House Of The Rising Sun
5. Hole In The World

音川英二 - soprano saxophone, tenor saxophone
George Garzone - soprano saxophone, tenor saxophone
田中信正 - piano
望月英明 - bass
森山威男 - drums

Recorded on March 9 & 10, 2002 at studio F, Tajimi-shi, Gifu.

森山威男 / Mana

ようやく入手できたアルバム。1994年4月24日、岐阜県多治見市Studio F(藤井医院の敷地に建てられたプライベート・スタジオ兼コンサート会場)での録音。入手が容易だったアルバム「虹の彼方に」が4月23日と24日の録音。なぜか本作「Mana」は市場にあまり流れて来なかった。所有するCD「虹の彼方に」には、再版であることが記載されている。「Mana」に対して、コンセプトが明確で売り上げを伸ばしたのだろう。

不思議なのは、「Mana」が24日のみに対して「虹の彼方に」が23日と24日の演奏で構成されていること。両日はどんな演奏順序だったのか。そして、それを2枚のアルバムにどんな狙いで振り分けたのだろう。「虹の彼方に」のライナーノーツは藤井医師が担当。2日間のコンサート直後の打ち上げで、スタジオの床に座り込んだ森山が「この演奏で自分は燃えつきました。今度こそ最後です」と語ったようだ。2枚のアルバムを続けて聴くと、森山の心境がよくわかる。

1. Sunrise
2. Dr. Fujii
3. Barjo
4. Exchange
5. Mana

井上淑彦 - soprano saxophone, tenor saxophone
林栄一 - alto saxophone
板橋文夫 - piano
吉野弘志 - bass
森山威男 - drums

Recorded on April 24, 1994 at Studio F, Tajimi-shi, Gifu.

森山威男 / 虹の彼方に

「平成」がいよいよ終わろうとしているが、「昭和」の匂いを感じさせるアルバム。最初と最後に「虹の彼方に」を配置し、真ん中に「見上げてごらん夜の星を」。その前後には、ジャズピアニスト板橋文夫が1981年に録音したソロアルバムから「わたらせ」と「グッドバイ」。そして、ジャケットの写真は昭和そのもの。CDのラベルもモノトーン。

録音データからはスタジオ録音と思ってしまうが、Studio Fとは、岐阜県多治見市の藤井医院の敷地に建てられたプライベート・スタジオ兼コンサート会場。このアルバムはライブ演奏。2015年3月25日、森山グループでテナーとソプラノを長年吹いてきた井上淑彦が永眠。「見上げてごらん夜の星を」のテナーが妙に切なくなる。

1. 虹の彼方に
2. わたらせ
3. 見上げてごらん夜の星を
4. グッドバイ
5. 虹の彼方に

井上淑彦 - soprano saxophone, tenor saxophone
林栄一 - alto saxophone
板橋文夫 - piano
吉野弘志 - bass
森山威男 - drums

Recorded on April 23 & 24, 1994 at Studio F, Tajimi-shi, Gifu.