森山威男 / My Dear

LPのライナーノーツは青木和富氏が担当で、こう始まる。「ぼくは、昔から日本には2人の天才的ドラマーがいると思っている。一人は富樫雅彦であり、そして、もう一人は、いわずと知れた森山威男だ。この2人以外には、日本にはジャズドラマーはいないとさえ思っている」。前半は同感なのだが、後半は問題発言。「とさえ・・・」と逃げ道を作りながらも、ジョージ大塚、渡辺文男、日野元彦、村上寛、古沢良治朗、小山彰太らは、太鼓は叩いてもジャズをやっていないと言っているのだ。ジャズ評論家が自己主張するのは当たり前だが、少なくとも日本のジャズ界を後押する立場にあることは間違いない。

さて、ピアノレス、フロント2管による新生・森山グループのファーストアルバム。LPの発売と同時に購入し長年愛聴してきた。そして、ようやくCDを最近手に入れることができた。森山は山下トリオを脱退後、1977年にアルバムFlush Upをリリース。それ以来、ベースの望月英明と組んでいる。当初はピアノの板橋文夫の存在が大きかったが、ピアノレスになって望月が舵取り役となった。本アルバムは、森山と望月のコンビネーションを中心に聴くと、いろいろと発見できるのだ。

1. Non Check
2. My Dear
3. No More Apple
4. Stormy Silence

井上淑彦 - tenor saxophone
藤原幹典 - tenor saxophone, soprano saxophone
望月英明 - bass
森山威男 - drums

Recorded on May 7, 8, 9 & 10, 1982 at Teichiku Suginami Studio #1.

森山威男 / HUSH-A-BYE

ようやくCDを手に入れた。森山威男、山下洋輔、富樫雅彦などの日本を代表するジャズマンのCDは再発されることが極めて少なく、中古CDが高値で取引されている。このHUSH-A-BYEも同様で、ずっと手を出せなかったのだが、未開封新品の定価CDを見つけ出した。ジャケットはLPから一新。赤と白に塗られた倉庫のような写真から、機内からの写真に切り替わった。どちらの写真も、このアルバムとの関連性はない。一つ考えられるのは、録音から2年後の1980年4月24日に小田切一巳は31歳で他界。小田切への追悼の意味を含めたような気がする。

森山カルテットに向井滋春をゲストとして迎えたアルバム。最大の聴きどころはタイトル曲Hush-A-Byeで、ジョニー・グリフィンの十八番でもある。ところが、向井は参加していない。タイトル曲はゲスト抜きなのである。「Hush-A-Bye(ねんねしな)、しげはる」ということか。

1. Sunrise
2. Hush-A-Bye
3. North Wind
4. Lover Man
5. Snow Tiger

小田切一巳 - tenor saxophone (tracks 1,2,5), soprano saxophone (track 3)
向井滋春 - trombone (except track 2)
板橋文夫 - piano
望月英明 - bass
森山威男 - drums

Recorded on February 27, 1978 at 1st Studio TEICHIKU KAIKAN.

森山威男 / Flush Up

森山威男は、1975年の大晦日のコンサートを最後に山下洋輔トリオを脱退。油井正一氏のライナーノーツには、森山による脱退の理由を載せてある。「あのトリオの発足当初は、うまくなりたい、早くまとまったグループになりたいといった目標があったが、いったん達成してしまうと次に目標とするものがなくなってしまった。妻が聖書を勉強していたせいもあって、“何のためにやるか”というようなことを真剣に考えるようになった。とにかく年1度ではあるが3か月を要するヨーロッパ旅行をはじめ、あまりにも自分自身の生活を犠牲にすることが多くなってきた。山下さんは“一生の仕事に情熱を傾けてゆくことが進歩することだ”と励ましてくれたが、僕は大切なものを失うような気がしてならなくなったのです」。

さらに、「山下トリオをやめて、自分の時間を持てるようになると、3か月ほどは音楽以外の仕事を探そうかと考えていた。山下トリオ以上に凄いグループにめぐりあえるはずはなかったので・・・」と付け加えている。もし、森山が音楽以外の仕事に就いていれば、日本のジャズ界にとっては大損失だった。だが、77年3月に新宿ピットインで森山は見事に復活。その瞬間を捉えたアルバム。CDには載っていないが、LPにはピットインでのメンバー4人のショットを掲載。それぞれ最高の表情。

1. Flush Up
2. Softly, As In A Morning Sunrise
3. Yellow Bear

高橋知己 - soprano saxophone, tenor saxophone
板橋文夫 - piano
望月英明 - bass
森山威男 - drums

Recorded on March 1 & 2, 1977 at PIT INN, Shinjuku, Tokyo.