Keith Jarrett / Inside Out

フリー・インプロビゼーションによるキース・トリオと紹介されるアルバム。しかし、その枕詞にはそれほどの意味はない。あらかじめ題材を決めているのと、曲想の簡単な約束だけを決めて演奏へ入るのに、根本的な違いはなく、違いがあるとすれば、聴き手側の気持ち。スタンダードであれば、どういう経路でどう着地するかを読める。なので、それに合わせて自分の気持ちを高めることができ、自然に拍手することになる。フリーの場合は着地を読めないからこそ、一瞬一瞬の演奏にかなり集中する必要がある。演奏者との感性が合わなければ、集中できないだけの話。

ライナーノーツでキース自身がこんなことを書いている。「ぼくらはなぜか、(ライブ演奏の)ロンドンでブルースの言語を避けることができなかった。フリーの演奏をしているときでさえ、そうだった。ブルースはとても幅広く浸透していて、真実味がある。ぼくらはときとして、ブルースから解放されているときでさえ、ブルースと共に生きているのだ」(訳:坂本信氏)。つまり、スタンダードであろうが、フリーであろうが、ブルースを感じなければ、もうそれはジャズではないということだ。

1. From The Body
2. Inside Out
3. 341 Free Fade
4. Riot
5. When I Fall In Love

Keith Jarrett - piano
Gary Peacock - bass
Jack DeJohnette - drums

Recorded on July 26 & 28, 2000 at the Royal Festival Hall, London.

Keith Jarrett / Whisper Not

1999年7月5日、パリの観客は燃えた。キース・ジャレット・トリオに。最高のパフォーマンス。2枚のディスク、全14曲。キース・ジャレット、ゲイリー・ピーコック、ジャック・ディジョネットの3人は、どれだけの創造力を有しているのだろう。ジャズの魅力の一つは即興演奏。その魅力を発揮できるのがライブ演奏。だが、一つ間違えれば退屈な音の羅列になってしまう。

この「間違える」というのは、リハーサル通りやるということではない。むしろ、リハを繰り返すほど、創造性は失われていく。いわば一発勝負。この3人はステージでの14発勝負。そのどれも、創造性が高く聴き手を圧倒させる。スイングジャーナル主催第34回(2000年度)ジャズ・ディスク大賞金賞受賞。ところで、ジャケットにはLive in Paris 1999と小さく書いているものの、なぜに「パリ・コンサート」や「Live 1999」のようなタイトルにしなかったのだろう。さらには、この日の前後の音源は残っていないのだろうか。まさか、7月5日のライブだけのために渡欧したとは思えない。

Disc 1
1. Bouncing With Bud
2. Whisper Not
3. Groovin' High
4. Chelsea Bridge
5. Wrap Your Troubles In Dreams
6. 'Round Midnight
7. Sandu

Disc 2
1. What Is This Thing Called Love?
2. Conception
3. Prelude To A Kiss
4. Hallucinations
5. All My Tomorrows
6. Poinciana
7. When I Fall In Love

Keith Jarrett - piano
Gary Peacock - bass
Jack DeJohnette - drums

Recorded on July 5, 1999 at the Palais De Congres, Paris.

Keith Jarrett / The Melody At Night, With You

このアルバムは、慢性疲労症候群で活動を休止していたキースが、2年間の療養生活の後にようやく復活し、1998年末に自宅スタジオで録音したスタンダードとトラディショナル曲を集めたソロピアノ集、と紹介されることが多い。つまり、病み上がりのキースを前提に聴いてくれということ。言い換えれば、リハビリ・アルバムなのである。

ジャズ的な緊張感は一切ない。タイトルの如く、メロディーがゆっくりと流れていく。一歩間違えれば単なるBGM。その中でも、アメリカ民謡Shenandoah(シェナンドー)を収録したことに注目したい。この曲は、キースと縁が深いチャーリー・ヘイデンとチャールス・ロイドが取り上げている。それぞれのアルバムは、2008年録音のRambling Boyと15年録音のI Long To See Youである。3人には共通するルーツがあるようだ。それらに遡って、ボブ・ディランがアルバムDown in the Groove(録音1983-87年)で歌っているのだ。

1. I Loves You, Porgy
2. I Got It Bad And That Ain't Good
3. Don't Ever Leave Me
4. Someone To Watch Over Me
5. My Wild Irish Rose
6. Blame It On My Youth / Meditation
7. Something To Remember You By
8. Be My Love
9. Shenandoah
10. I'm Through With Love

Keith Jarrett - piano

Recorded in December 1998 at Cavelight Studio, New Jersey.