菊地雅章 / ススト

リアルタイムで聴かなかったアルバム。70年代終盤から80年代前半に吹き荒れたフュージョンは毛嫌いしていた。このアルバムも、ジャケットの印象からその亜流と感じたのだ。1981年2月付けのライナーノーツで野口久光氏が絶賛。次のように締め括っている。「プーサンは長い沈黙を破って、遂にわれわれの期待をはるかに超える力作をおくり出した。マンネリ化が取りざたされるフュージョン・ジャズの沈滞ムードを破るこれはニュー・サウンドであり、菊池雅章によって1980年代のジャズの夜明けは告げられた、といえる。これは沈黙7年のマイルスの意志を継いだニュー・サウンドであり、1981年度にリリースされるジャズアルバム中最も重要なもののひとつとなるであろう」。

確かに、1980年代に入ってジャズは混迷の時を迎えた。結果、ジャズミュージシャンは、売れる音楽をやらざるを得なかったのだろう。プーサンまでもが…。ヒノテルが参加したことが、さらにこのアルバムの価値を下げてしまった。つまり、日本のトップジャズミュージシャンが、行き場を失ったことを示しているアルバム。「ススト」=「突然の恐怖」という意味らしい。実際に、この恐怖は長らく続いていった。そして、自分ならば、この手の「ニュー・サウンド」=「一発花火」と締め括りたい。ジャズを愛する人が欲しているのは、決して新しいサウンドではなく、心を揺さぶるサウンドなのだ。

1. Circle / Line
2. City Snow
3. Gumbo
4. New Native

Masabumi Kikuchi - keyboards, synthesizer
Terumasa Hino - cornet, bolivian flute (except track 3)
Steve Grossman - soprano saxophone, tenor saxophone
Dave Liebman - soprano saxophone, tenor saxophone, alto flute
James Mason - guitar
Marlon Graves - guitar
Barry Finnerty - guitar
Hassan Jenkins - bass
Richie Morales - drums
Yahya Sediq - drums
Alyrio Lima - percussion
Aiyb Dieng - conga
Sam Morrison - wind driver
Ario Moreira - percussion
Ed Walsh - synthesizer program

Recorded in November 1980 at Sound Ideas Studios, NYC.

Keith Jarrett / Somewhere

「完璧」という言葉は安易に使いたくないが、そう言うしかない。ピアノトリオとして頂点を極めた。緊張感とか躍動感、そしてインタープレイなどの尺度ではなく、キース・ジャレット、ゲイリー・ピーコック、ジャック・ディジョネットの3人による演奏から、喜びが伝わってくるのだ。しかも、最高のコンサートホールで。彼等は1983年1月にアルバムStandardsを録音し、その後「スタンダーズ・トリオ」と称されてきた。それから26年後の2009年7月。ついにスタンダードの枠を乗り越えた「歓喜のトリオ」と呼びたい。さらに、録音もジャケットも申し分なし。

Wikipediaによると、ライブが行われたKKL(ルツェルン・カルチャー・コングレスセンター)内のコンサートホールは、世界トップクラスのオーケストラ、指揮者、演奏家たちが集まるルツェルン・フェスティバルのメイン会場とのこと。ジャケット内には、このホールでのリハーサル風景が写っている。真剣勝負の3人である。

1. Deep Space / Solar
2. Stars Fell On Alabama
3. Between The Devil And The Deep Blue Sea
4. Somewhere / Everywhere
5. Tonight
6. I Thought About You

Keith Jarrett - piano
Gary Peacock - bass
Jack DeJohnette - drums

Recorded on July 11, 2009 at KKL Luzern Concert Hall, Lucerne, Switzerland.

Kenny Burrell / Midnight Blue

「ジャズってどんな音楽?」と聞かれたら、「基本はブルースだね」と答える。「ブルースって?」とさらに聞かれたら、「う~ん、循環音楽なんだよ」と。「循環って?」となれば、「あるパターンを繰り返すことで気持ちが高揚するんだなぁ」とかなり苦し紛れ。学生時代のコンボでは、ブルースが基本だった。セッションが進み、徐々に体がほぐれていくと、体を前後に揺らせて船漕ぎが始まる。いわゆる、ハイになる状態。なので、ジャズはブルースであり、船漕ぎ。

このアルバムMidnight Blueは、ブルースを軸にして作られている。イカしたジャケットを帆にして、夜中のどこへ漕ぎ出していくだろうか。CD帯からの抜粋。「ジャズギターの決定盤。最高のギタリストによる都会的で洗練された極上のブルース。真夜中のモダンジャズ」。ブルースに都会的や田舎的があるのかどうかわからないが、もう一つの魅力は、曲毎の楽器編成を変えていること。一発勝負のブルースではなく、かなり計算されたセッションを収録している。

1. Chitlins Con Carne
2. Mule
3. Soul Lament
4. Midnight Blue
5. Wavy Gravy
6. Gee Baby, Ain't I Good To You
7. Saturday Night Blues

Stanley Turrentine - tenor saxophone (except tracks 3,4,6)
Kenny Burrell - guitar
Major Holley - bass (except track 3)
Billy Gene English - drums (except track 3)
Ray Barretto - conga (except tracks 3,6)

Recorded on January 8, 1963 at Rudy Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey.