Kenny Dorham / UNA MAS

音楽プロデューサーのマイケル・カスクーナは、このアルバムをライナーノーツで次のように評している(訳:和田政幸氏)。

「このアルバムはいろんな点で、ジャズの前進を促した作品である。まず、ドーハムがトランペッター兼作曲家としての見識を発揮して、ブラジリアン・サンバをとりあげたこと。優美なボサノバは、当時カクテル・ラウンジなどで流行しかけていたが、このサンバはそれとは対照的な音楽だ。〈中略〉『ウナ・マス』は発売と同時に、多くの人の心を捉えた。この曲の、不思議な魅力的なパルスにショックを受けた人たちは、この後の10年間、いくつもの新しいジャズ・スタイルを創造していく」。

絶賛である。確かに一つの変曲点にはなったと思う。しかしながら、それをバックで支えたのは、ハービー・ハンコックとトニー・ウィリアムス。本作の録音から1ヶ月後の1963年5月14日、この二人はマイルスのセッションに参加。マイルスは自叙伝でこう書いている。「新しいクインテットは、ものすごいバンドになるという自信が、オレにはあった。彼らはほんの二、三日間であれだけすごくなったんだから、二、三カ月後にはどうなっているんだろうかと、こみ上げてくる昂奮があった」。仮にドーハムが「ウナ・マス(もう1回!)」と二人に叫んでも、彼らはマイルスに引き抜かれてしまったのだ。

1. Una Mas (One More Time)
2. Straight Ahead
3. Sao Paolo
4. If Ever I Would Leave You

Kenny Dorham - trumpet
Joe Henderson - tenor saxophone
Herbie Hancock - piano
Butch Warren - double bass
Tony Williams - drums

Recorded on April 1, 1963 at Rudy Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey.

Kenny Dorham / Matador

CD帯から。「スパニッシュ・ムードが横溢するジャッキー・マクリーンとの双頭バンドによる傑作。中でもエキゾティックなメロディーを持つタイトル曲が素晴らしい」。まぁ、その通りだと思う。一つ付け加えるとすれば、5曲目Preludeで、ケニー・ドーハムとボビー・ティモンズによるデュオが、このアルバムの隠し味になっていること。

さらにもう一つ。ジャケットで何を表現しようとしたのか。幾何学模様で構成し、一切の文字を排している。タイトルMatadorとは闘牛士のことだが、この模様との関連性が思い浮かばない。そういう意味では、ジャズのアルバムとしては意表を突いたジャケットであって、演奏内容もある種の怪しい雰囲気が漂う。そんなイメージで本作を訴求するのであれば、ジャケット裏面のドーハムのモノクロ写真を使うべきだった。それこそ、闘牛士の内面を捉えたようなショットである。

1. El Matador
2. Melanie Parts 1-3
3. Smile
4. Beautiful Love
5. Prelude
6. There Goes My Heart

Kenny Dorham - trumpet
Jackie McLean - alto saxophone (tracks 1-4,6)
Bobby Timmons - piano
Teddy Smith - bass (tracks 1-4,6)
J.C. Moses - drums (tracks 1-4,6)

Recorded on April 15, 1962 at Sound Makers, NYC.

Kenny Dorham / Quiet Kenny

ようやく安価な中古CDを見つけて購入。邦題は『静かなるケニー』。LPを所有したときから思っていたのだが、この訳は間違いではないだろうか。quietは余計な動きや音がないという意味を持つ。ジャズはアドリブが勝負。それも、演奏する曲のイメージをどれだけ膨らませるかが鍵となる。余計な音を出してイメージを壊してしまったら負けなのだ。意訳ながら「秘めたるケニー」でどうだろうか。

さて、1曲目のLotus Blossom(蓮の花)はケニーのオリジナル。6拍子と4拍子を組み合わせ変則的ながら印象に残る曲。ところが、Asiatic Raesという曲名で、ソニー・ロリンズが1957年9月録音のアルバムNewk's Timeに、フレディ・ハバードが60年11月録音のアルバムGoin' Upに収録している。このQuiet Kennyは59年11月録音なので、何とも不思議である。

1. Lotus Blossom
2. My Ideal
3. Blue Friday
4. Alone Together
5. Blue Spring Shuffle
6. I Had The Craziest Dream
7. Old Folks
8. Mack The Knife

Kenny Dorham - trumpet, vocals
Tommy Flanagan - piano
Paul Chambers - bass
Art Taylor - drums

Recorded on November 13, 1959 at Rudy Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey.