Keith Jarrett / Whisper Not

1999年7月5日、パリの観客は燃えた。キース・ジャレット・トリオに。最高のパフォーマンス。2枚のディスク、全14曲。キース・ジャレット、ゲイリー・ピーコック、ジャック・ディジョネットの3人は、どれだけの創造力を有しているのだろう。ジャズの魅力の一つは即興演奏。その魅力を発揮できるのがライブ演奏。だが、一つ間違えれば退屈な音の羅列になってしまう。

この「間違える」というのは、リハーサル通りやるということではない。むしろ、リハを繰り返すほど、創造性は失われていく。いわば一発勝負。この3人はステージでの14発勝負。そのどれも、創造性が高く聴き手を圧倒させる。スイングジャーナル主催第34回(2000年度)ジャズ・ディスク大賞金賞受賞。ところで、ジャケットにはLive in Paris 1999と小さく書いているものの、なぜに「パリ・コンサート」や「Live 1999」のようなタイトルにしなかったのだろう。さらには、この日の前後の音源は残っていないのだろうか。まさか、7月5日のライブだけのために渡欧したとは思えない。

Disc 1
1. Bouncing With Bud
2. Whisper Not
3. Groovin' High
4. Chelsea Bridge
5. Wrap Your Troubles In Dreams
6. 'Round Midnight
7. Sandu

Disc 2
1. What Is This Thing Called Love?
2. Conception
3. Prelude To A Kiss
4. Hallucinations
5. All My Tomorrows
6. Poinciana
7. When I Fall In Love

Keith Jarrett - piano
Gary Peacock - bass
Jack DeJohnette - drums

Recorded on July 5, 1999 at the Palais De Congres, Paris.

Keith Jarrett / The Melody At Night, With You

このアルバムは、慢性疲労症候群で活動を休止していたキースが、2年間の療養生活の後にようやく復活し、1998年末に自宅スタジオで録音したスタンダードとトラディショナル曲を集めたソロピアノ集、と紹介されることが多い。つまり、病み上がりのキースを前提に聴いてくれということ。言い換えれば、リハビリ・アルバムなのである。

ジャズ的な緊張感は一切ない。タイトルの如く、メロディーがゆっくりと流れていく。一歩間違えれば単なるBGM。その中でも、アメリカ民謡Shenandoah(シェナンドー)を収録したことに注目したい。この曲は、キースと縁が深いチャーリー・ヘイデンとチャールス・ロイドが取り上げている。それぞれのアルバムは、2008年録音のRambling Boyと15年録音のI Long To See Youである。3人には共通するルーツがあるようだ。それらに遡って、ボブ・ディランがアルバムDown in the Groove(録音1983-87年)で歌っているのだ。

1. I Loves You, Porgy
2. I Got It Bad And That Ain't Good
3. Don't Ever Leave Me
4. Someone To Watch Over Me
5. My Wild Irish Rose
6. Blame It On My Youth / Meditation
7. Something To Remember You By
8. Be My Love
9. Shenandoah
10. I'm Through With Love

Keith Jarrett - piano

Recorded in December 1998 at Cavelight Studio, New Jersey.

Keith Jarrett / Tokyo '96

アルバムStandards(1983年1月録音)で旗揚げしたキース・ジャレット、ゲイリー・ピーコック、ジャック・ディジョネットによるトリオ。やがて「スタンダーズ・トリオ」と呼ばれるようになった。それから13年を経て東京でのライブアルバム。彼らは決してスタンダード曲に固執した訳ではないだろうが、世間がそういうレッテルを貼ってしまった。ジャケットのキースは、それを苦笑いしているかのようだ。

ということは、終わり方、閉め方を彼らに委ねたことになる。つまり、スタンダード曲から脱却した「スタンダーズ・トリオ」は許されなくなってしまったのだ。このライブでも、彼らの演奏以上にスタンダード曲に対して、会場から拍手が沸いてきている感じ。ジャズとは変化することが宿命の音楽。それを封じ込めてしまったのはメディアであり、それを歓迎してきたのが聴き手。このライブアルバムでは、日本の観客の甘さを感じる。「いい加減に、スタンダードから足洗え!」と、ブーイングが出ても可笑しくないのだ。

1. It Could Happen To You
2. Never Let Me Go
3. Billie's Bounce
4. Summer Night
5. I'll Remember April
6. Mona Lisa
7. Autumn Leaves
8. Last Night When We Were Young / Caribbean Sky
9. John's Abbey
10. My Funny Valentine / Song

Keith Jarrett - piano
Gary Peacock - bass
Jack DeJohnette - drums

Recorded on March 30, 1996 at The Bunkamura Orchard Hall, Tokyo.