Bob Dylan / ボブ・ディラン自伝

2005年7月29日発行 ソフトバンク・クリエイティブ株式会社 1800円。365ページ。第1章「初めの一歩」、第2章「失われた土地」、第3章「新しい夜明け」、第4章「オー・マーシー」、第5章「氷の川」。

第3章は、1970年夏に録音したアルバムNew Morningを示しているものの、レコーディングの経緯よりもウッドストックでの生活を中心に描いている。そして、本書の核となるのは第4章。ページ数が最も多く、1989年前半に録音したアルバムOh Mercyに関して詳細に記述している。ディランにとって、大きな変曲点となったアルバムであったことが分かる。このアルバムの制作に着手する前の心境を、ディランは次のように書いてる。

「わたしには歌をつくりたいという強い欲求がまったく湧いてこなかった。いずれにしても長いあいだ、歌をつくってはいなかった。わたしは曲づくりをやめていた。つくりたいという気持ちがなくなっていた。最近の何枚かのアルバムには、自作曲がさほど入っていない。ソングライターでいるということについて、わたしはこれ以上ないくらい無頓着でいた。すでにたくさんの曲をつくっており、それで充分だった。わたしは必要なことをすべてやって目標に到達したのであり、それ以上の目標を持っていなかった。〈中略〉ふたたび何かを書こうとは決して思わない。どちらにしても、歌はこれ以上必要なかった」。

しかし、Oh Mercyの1曲目に収められたPolitical Worldの詩が、突然として湧いてくる。それをきっかけにして、ディランは復活した。

Charles Mingus / 自伝・敗け犬の下で

1973年9月30日発行 晶文社 定価1500円。363ページ。内藤忠行氏によるミンガスの写真集から始まる。全16カット。その中には植草甚一とのツーショット。巻末には、佐藤秀樹氏によるミンガスのディスコグラフィーを掲載。1980年頃に古本で購入した。その当時、自分に有用だったのは、この写真集とディスコグラフィーのみ。『自叙伝』となっているが、ジャズマンとしての自叙伝ではない。以下の『訳者あとがき』にあるように、ファッツ・ナバロを回想しながら、自らを「チャールズ」と三人称として、やみくもにペンを走らせた体験記。ページはめくったが、読み込んではいない。

「この自叙伝は、初め1500頁にもなる大部な私家版の形として彼の友人知己に配られたが、クノップ社の懇請により、ミンガスに親しいネル・キング婦人が縮小し編集し直して公刊の運びとなったものである。〈中略〉本書はあくまでも自らの手で綴られた、1950年ファッツ・ナバロの死を見とるまでの彼の魂の経緯である」。

清水俊彦 / ジャズ転生

1987年8月30日発行 晶文社 定価2370円。243ページ。清水俊彦氏の著書は2冊所有している。1981年4月発行の『ジャズ・ノート』と本書。前者はあまりにも難解で、読者へ語り掛けるような文章ではなかった。しかし、本書は雑誌『ジャズ・ライフ』と『海』を中心にしたコラム、そして新たに書き下ろしたエッセイ集めたもので、読みやすくなっている。だが、本書に取り上げたミュージシャンに対して、清水氏はインタビューを行っていない。一部にコンサート評があるものの、彼の根源的な弱さがそこにある。彼の言葉が躍動していない理由だ。

第1章
・ミルフォード・グレイヴスが語りかけるもの
・デレク・ベイリー ― 新しい即興言語の開拓者
・アンソニー・デイビスの『エピステーメー』
・ビリー・バングとアンソニー・デイビスの冒険的で挑戦的な新作
・ワールド・サキソフォン・クヮルテットの『レヴュー』
・AMMは音を媒介にして探究を行なう
・セシル・テイラーのスタイルの内的統一性について
・『ソングス』は詩とジャズの挑発的な結合として注目に値する
・チック・コリアによるトリオの新しい建築学のエッセンス
・富樫雅彦と高柳昌行のフリー・インプロビゼーション
・黒人音楽が生きた実体であることをレスター・ボウイは喚起する
・ロナルド・ジャクソンがデコーディング・ソサエティを組織した
・スティーヴ・レイシー・セヴンの『プロスペクタス』
・ザ・ゴールデン・パロミノスとその広がりを垣間見る
・『ザ・ゴールデン・パロミノス』のもう一つの見方
・スペシャル・エディションの聴きかた
・ジャズは伝統へスイング・バックする ― デヴィッド・マレイの場合
第2章
・マイルス・デイビスの変化への耽溺とファンクについて
第3章
・ジョン・ゾーン ― ポスト・モダンの音楽の建築家
・エンニオ・モリコーネの作品を変質させたジョン・ゾーンの新作
・ハル・ウィルナーの制作した『アマルコルド ニーノ・ロータ』
・ゲイリー・ギディンズの『リズマニング』を読む
・ベルギーの異端的なピアニスト、フレッド・ヴァン・ホーフ
・キップ・ハンラハンと『デザイアー・デヴェロップス・アン・エッジ』
・ドン・ピューレンを三つのコンテキストのなかで聴く
・即興の哲学に向けて
・ウィントン・マーサリスと『ブラック・コーズ』について
・独創的なフルート奏者ジェームズ・ニュートンの二作
・ブルースの成行き ― ウォーレスとヘンフィルの場合
・マイルスの器楽的スリラー『ユウ・アー・アンダー・アレスト』
・マイルス・デイビスのコンサートについて
第4章
・キース・ジャレットあるいは役者の影のミュージシャン
第5章
・オーネット・コールマンとプライム・タイムについて
・ブッチ・モリスと彼の〈コンダクション〉
・ラスト・イグジットと『ラスト・イグジット』
・ディアマンダ・ギャラス ― 神秘的なアウトロー
・ザ・ヴィエナ・アート・オーケストラの『エリック・サティのミニマリズム』
・スティーヴ・レイシーのソロ・アルバム『ザ・キス』
・チコ・フリーマン、ウィントン・マーサリス、デヴィッド・マレイ
・ヘンリー・スレッギル・セクステットのアルバムを聴こう
・ノスタルジックなカーラと突飛な領域にまで踏み込んだカーラ
・パット・メセニーの音楽の全領域を収めた二枚のアルバム
・パット・メセニーとオーネット・コールマンの『ソングX』