Bob Dylan / Shot Of Love

アルバムSlow Train Coming, Saved, Shot Of Loveはキリスト教三部作、ないしはゴスペル三部作と呼ばれていて、前2作の計18曲のタイトルにはLoveという言葉は出て来ない(いくつかの歌詞の中には、単語loveを見つけることはできるが)。そして、本作のタイトル曲Shot Of Love、5曲目Watered-Down LoveにLoveが登場するが、どちらも素直なラブソングではない。むしろ、2曲目Heart Of Mineが心の葛藤を歌うラブソング。この曲には、神も主もイエスも登場しない。結局のところ、誰かがカテゴライズしてキリスト教三部作などと名付け、盲目的に暗唱されてきたに過ぎないのだ。

あまりも手抜きしたジャケットのイラストから、敬遠されてきたアルバムだろう。だが、ラスト曲Every Grain Of Sandは間違いなく傑作。アルバムTrouble No Moreのライナーノーツには、「William Blake(ウィリアム・ブレイク)の詩集〈Auguries of Innocence ― 無垢の予兆〉の最初の一行To see a World in a grain of sand(一粒の砂の中に世界を見ることができる)からタイトルがつけられたのだろう」とある。たしかに、「無垢の予兆」を読むと、この歌とつながっている。そして、次のフレーズでこの曲は幕を閉じる。ここに、ディラン本来の言葉が蘇っている。

「太古の足音がわたしには聞こえる、まるで海のうねりのような/振り返ってみると、そこには誰かがいることもあるし、自分ひとりしかいない時もある/わたしは人の実体がよくわからないまま宙ぶらりんの状態/落ちてくるすべてのスズメのように、あらゆる砂粒のように」。

1. Shot Of Love
2. Heart Of Mine
3. Property Of Jesus
4. Lenny Bruce
5. Watered-Down Love
6. The Groom's Still Waiting At The Altar
7. Dead Man, Dead Man
8. In The Summertime
9. Trouble
10. Every Grain Of Sand

Bob Dylan - guitar, harmonica, percussion, piano, keyboards, vocals
Carolyn Dennis - vocals, background vocals
Steve Douglas - saxophone
Tim Drummond - bass guitar
Donald "Duck" Dunn - bass guitar
Jim Keltner - drums
Clydie King - vocals, background vocals
Danny "Kootch" Kortchmar - guitar, electric guitar
Regina McCrory - vocals, background vocals
Carl Pickhardt - piano
Madelyn Quebec - vocals, background vocals
Steve Ripley - guitar
William D. "Smitty" Smith - organ
Ringo Starr - drums, tom-tom
Fred Tackett - guitar
Benmont Tench - keyboards
Ronnie Wood - guitar
Monalisa Young - vocals

Recorded in March - May 1981.

Bob Dylan / Saved

ほぼ全てディランの作品で構成されている。唯一、他者の作品A Satisfied Mind(Red HayesとJack Rhodesによる1950年代半ば作)を1曲目に配置。「満たされる心は富とか名声ではない」という内容で、これがこのアルバムを象徴するディランのメッセージなのだろう。そして、タイトル曲Savedは、ディランとTim Drummondによる合作だが、それ以外はディランの作詞作曲。全ての詞を訳したが、そのどれもが何らかの形で聖書と結びついている。

例えば、4曲目では、"What can I do for You?"を繰り返し、大文字のYouとしている。つまり、「あなたのために何ができるだろう?」の「あなた」は恋人ではなく、明らかに「神」を示している。だが、詳細に読み込んでいくと、6曲目のPressing Onには、"Shake the dust off of your feet, don't look back"(足の土埃を振り払い、振り返るんじゃない)のフレーズが出てくる。この"don't look back"は、まさしくディランの言葉。聖書を参考にしながらも、出来上がった曲はディランの曲でしかないのだ。

1. A Satisfied Mind
2. Saved
3. Covenant Woman
4. What Can I Do For You
5. Solid Rock
6. Pressing On
7. In The Garden
8. Saving Grace
9. Are You Ready

Bob Dylan – guitar, harmonica, keyboards, vocals
Carolyn Dennis – vocals
Tim Drummond – bass guitar
Regina Havis – vocals
Jim Keltner – drums
Clydie King – vocals
Spooner Oldham – keyboards
Fred Tackett – guitar
Monalisa Young – vocals
Terry Young – keyboards, vocals

Recorded in February 11 – 15, 1980.

Bob Dylan / Slow Train Coming

このアルバムがリリースされた1979年の前年、ディランはワールド・ツアーを開始し初の来日公演を行った。自分は武道館の後方に座り、何の曲を聴いたのかは全く覚えていない。ディランを見たことだけに満足していた。一転して、このアルバムでは新生ディランを前面に出した。キリスト教うんぬんと今でも言われているが、新たな極致を見出したのだと当時は感じた。

古い話だが、2011年5月9日の朝日新聞朝刊27面に、詩人・長田弘氏のコメントがあった。「ディランの曲は、Chant(詠唱)であり、Hymn(賛歌)でありAnthem(頌歌)。何度聴いても飽きない。というより、繰り返し聴くことでしか意味をなさない」。例えば、4曲目Slow Trainで繰り返されるフレーズは「ゆっくりと、ゆっくりと汽車がやってくる、曲がりながら」。さらに歌詞を読み込んでいくと「人々は飢え渇いているのに、穀物倉庫は満杯ではちきれそう/食料を分け与えるより備蓄するほうに金がかかるんだ」と歌っていることに気付く。何度も聴き込むことで、少しずつディランに迫れるのだ。

1. Gotta Serve Somebody
2. Precious Angel
3. I Believe In You
4. Slow Train
5. Gonna Change My Way Of Thinking
6. Do Right To Me Baby (Do Unto Others)
7. When You Gonna Wake Up?
8. Man Gave Names To All The Animals
9. When He Returns

Bob Dylan – guitar, vocals
Barry Beckett – keyboards, percussion
Mickey Buckins – percussion
Carolyn Dennis – background vocals
Tim Drummond – bass guitar
Regina Havis – background vocals
Mark Knopfler – lead guitar
Muscle Shoals Sound Studio – horns
Helena Springs – background vocals
Pick Withers – drums

Recorded in April 30 – May 11, 1979.