吉田拓郎 / LIVE'73

歌詞カードの最後には、拓郎自身の長文のコメントが載っている(1973年11月29日付け)。ライブ・レコーディングには満足した拓郎であるが、仕上がったアルバムでは、ボーカルの音量がオフ気味である。

「このライブレコードが店頭に並ぶ頃には僕も一児の父親になっている筈である。この父親は、だらしないのだ。生まれくる子供に何をしてやればよいのかという事さえ知らない。ましてや立派に育てていく自信などないのだ。否、子供はきっと自力で立ちあがるだろう。自力で大きくなっていくに違いない。〈中略〉僕は古い船に乗り込む新しい水夫である。しかし、子供は新しい船に乗り込む新しい水夫なのだ」。
〈中略〉
「さて、僕はライブレコーディングというものについて、いささか自信を失いつつあったので、改めて音を聴き直してみるまではレコードにしてしまう事と非常に不安を抱いていた。しかし、今回のライブレコーディングに関しては、少々大袈裟な云い方をすれば、自分としてはあまりにうまくいきすぎたと思っている。賛否両論ある事とは思うが、満足している事は否定しない」。

1. 春だったね '73
2. マークⅡ '73
3. 君去りし後
4. 君が好き
5. 都万の秋
6. むなしさだけがあった
7. 落陽
8. 雨が空から降れば
9. こうき心 '73
10. 野の仏
11. 晩餐
12. ひらひら
13. 望みを捨てろ

よしだたくろう - vocal
石川鷹彦 - acoustic guitar, banjo, dobro, flat mandolin
田中清司 - drums
岡澤章 - electric bass
高中正義, 常富喜雄 - electric guitar
栗林稔 - electric piano
松任谷正隆 - hammond organ
田口清, 吉田拓郎 - acoustic guitar
内山修 - percussion
ウイルビーズ - back ground vocals
村岡健, 羽鳥幸次, 村田文治, 佐野健一, 新井英治 - brass section
新音楽協会 - strings section

録音 1973年11月26,27日 / 東京中野サンプラザホール

鈴木勲 / Hip Dancin'

FM東京の渡辺貞夫の番組『マイ・ディア・ライフ』に鈴木勲がゲスト出演して、8弦のセロを使って演奏したことを覚えている。基本の4弦に共鳴するような構造にしたと言っていた。その番組が、このアルバムのリリース前だったのか、後だったのか。たしか、アローン・トゥゲザーをソロで演奏していた記憶があり、こういうジャズもあるのかと興奮した。

その興奮は、ラジオから流れてくるある種のライブ演奏で、しかもソロだったからだろう。このアルバムからは、その時の興奮が伝わってこない。主役のセロに対して、ピアノ、ギター、ベース、ドラムという構成が、互いの瞬発力を妨げている。特にエレクトリックピアノが入る曲では、セロの響きを台無しにしているのだ。

1. Hip Dancin'
2. We'll Be Together Again
3. Sack O' Woe
4. Falling In Love With Love
5. Alone Together

渡辺香津美 - guitar
辛島文雄 - piano, electric piano
鈴木勲 - cello
Sam Jones - bass
Billy Higgins - drums

Recorded on April 17, 1976 at Onkyo House, Tokyo.

高田渡 / 貘

さて、高田渡のアルバムであるが、渡だけのアルバムではない。多くのミュージシャンが関わっている。サブタイトルは「詩人・山之口貘をうたう(監修・高田渡)」となっている。そして、CDの帯にはこう書いてある。「ボクは今、やっと山之口貘さんに逢えた様な気がします。ステキな詩は反芻(はんすう)しながら生きていくと思っています」。

この反芻という言い方が、渡らしい。渡の生き方は反芻だったような。決して唄を作り続けるとは思っていなくて、自分の「唄」を探し続けてきた人生ではなかったのか。ライナーノーツには、こうも書かれている。「山之口貘さんの詩に出会ったのは、ボクが十八の頃。一年程本棚の片隅に眠っていた。…気がつくと貘さんのトリコになっていた、いつの間にか歌っていた」。その代表曲が「生活の柄」。渡が最初に録音したのは、1971年のアルバム「ごあいさつ」。それから人生を終えるまで歌い続けてきた。1曲目「年齢」以外は、全て貘の詩。ブックレットには、その原詩が載っている。いわば、このアルバムは貘の詩集とも言えるのだ。

1. 年齢・歯車
2. 結婚
3. 深夜
4. たぬき
5. 座布団
6. 告別式 I
7. 玩具
8. 第一印象
9. 鮪に鰯
10. 頭をかかえる宇宙人
11. 貘
12. 会話
13. 紙の上
14. 告別式 II
15. ものもらい
16. 石
17. 夜景
18. 生活の柄

・ 参加ミュージシャン:高田渡, 大工哲弘, 佐渡山豊, 石垣勝治, 嘉手苅林次, つれれこ社中, 大島保克&オルケスタ・ボレ, ふちがみとふなと, 渋谷毅, 内田勘太郎(from憂歌団), ローリー, 関島岳朗, 中尾勘二, 桜沢有理
・ 録音:1997.12 - 1998.4 国際貿易スタジオ(那覇・泊), ふぉるく(東京・大森), SPACE VELIO(東京・阿佐ヶ谷)
・ 発売:1998年5月23日