マイルスの遺作。1回目の録音を1991年2月に終え、8月から2回目の録音を予定していたようだが、体調が悪化。9月28日に他界。だが、決して無念ではなかったのだろう。
それは、ジャケットの写真を見れば明らかである。「まずは、いい感じでペットを吹けたぜ!」とカメラに向かっている。ただ、よく見るとペットを口にしただけ。眼光は決して鋭くない。このとき65歳。自分の肉体と戦いながら、音楽の道を彷徨っていたはずだ。過去へ遡れない性格のマイルス。彼なりの新しい道を切り開こうとしていた。その過程はリスナーから理解されたものの、絶賛はされなかった。
結局、マイルスはどんどんと前へ進み、リスナーを置き去りにしてしまったのではないかと思っている。「リスナー?そんな奴らのことを考えて音楽をやってきたつもりはないぜ!」と逝ってしまった。そして、今一度ジャケット写真を見れば分かる。「これ以上、何をやればいいんだ?」と目が語っている。
だが、実際のマイルスは違った。小川隆夫氏による著書『マイルス・デイビスの真実』に、その答えがあった。マイルスへのインタビューを重ねて来た小川氏が、8月中旬頃にインタビューを申し出たが、「マイルスの体調が思わしくないので、手紙で質問を送って欲しい」とマネージメントからの連絡。質問状を送ったのは8月末、9月10日すぎには次の返事が届いたそうだ。
「今後はブロードウェイのステージに出てみたい。それから、世界中でコンサートと自分の絵によるエキシビションを同時開催したい。これから先、どのような音楽をやっていくかは、いままでもそうだったが、まったく考えていない。いつもそのときに自分が一番ヒップと感じるものをやるだけだ。いまも頭の中にはヒップな音楽が鳴っているが、それが具体的な音になるかはわからない」。マイルスは最期まで前進を続けるマイルスだったのだ。
1. Mystery
2. The Doo Bop Song
3. Chocolate Chip
4. High Speed Chase
5. Blow
6. Sonya
7. Fantasy
8. Duke Booty
9. Mystery (Reprise)
Miles Davis - trumpet
Kenny Garrett - alto saxophone
Deron Johnson - keyboards
Easy Mo Bee - programs, samples, rap
J.R., A.B. Money - rap
Recorded in January - February 1991 in NYC.