Mal Waldron / All Alone

1976年1月3日付けのライナーノーツで、悠雅彦氏による解説はこう始まる。「マル・ウォルドロンは特異なピアニストである。特異な感覚をもつピアニストであると言いなおしてもよい。マルのソロの世界は、あたかも黒煙りが立ちこめるよう、情念の思い入れがサウンドをいっそう黒くする」。マルの音楽のイメージが十分に伝わってくる表現。

ピアノという楽器を、誰の助けも借りず、ただ一人で演奏して、記録に残す。この仕事は、この行動は、孤独である。All Aloneの出だしのワン・フレーズ。このアルバムは、そこで決まった。テクニックとか、左手の和音とか、という評論をしてもあまり意味がない。どんなジャズプレイヤーであっても、結局のところ自分との闘いである。マルは、それに挑んだ。なお、全8曲はマルの作品。

1. All Alone
2. Due Torri
3. A View Of S. Luca
4. Blue Summer
5. If You Think I'm Licked
6. Three For Cicci
7. Mosque Raid
8. Waltz Of Oblivious

Mal Waldron - piano

Recorded on March 1, 1966 in GTA, Italy.

Mal Waldron / The Quest

マル・ウォルドロンのリーダーアルバムではあるが、全体の雰囲気は、エリック・ドルフィーとロン・カーターが支配している。マルはそんなことを気にせず、全曲がマル自身の作品で、自分の目指したジャズをここでは追求した。「リズム」や「緊張感」などではなく、「揺らぎ」という新たな軸を設定しようとしたのではないだろうか。

questとは「探究」。それにTheを付けたことで「ザ・探究」なのだが、それでは邦題にならないので、「ここに探究あり」としたい。で、何を探究しようとしたのかが大事。それは、参加したメンバーの「心の揺らぎ」だった。「緊張感」はどちらかと言うと垂直方向、そして「揺らぎ」は水平方向である。この水平感覚を掴んだ瞬間、ジャズの深みにはまってしまうのだ。ラスト曲Fire Waltzは、ドルフィーのアルバムAt The Five Spot Vol.1で有名。ライブ録音は本作から3週間後の7月16日なので、探求の結果がそこに示されている。

1. Status Seeking
2. Duquility
3. Thirteen
4. We Diddit
5. Warm Canto
6. Warp And Woof
7. Fire Waltz

Eric Dolphy - alto saxophone, clarinet
Booker Ervin - tenor saxophone (tracks 1-4,6,7)
Mal Waldron - piano
Ron Carter - cello
Joe Benjamin - bass
Charlie Persip - drums

Recorded on June 27, 1961 at Rudy Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey.

Mal Waldron / Left Alone

LPのライナーノーツ(佐藤秀樹氏の解説)に「マルがレフト・アローンを作曲したのは、59年の春と言われている。そして、生前、ビリーの愛唱歌のひとつであったこの曲をアルバムタイトルに持つLPが、彼女の死後間もなく吹き込まれたのは当然と言ってよいだろう」とある。ここに大きな間違いが2つ。録音は1959年2月24日であり、ビリーが亡くなったのは59年7月17日。さらに、ビリーのディスコグラフィーに彼女が歌ったレフト・アローンは残されていない。

アルバムには、ヴァイブ奏者テディ・チャールズによる、マルへのインタビューが記録されている。「ビリーが死んですぐに、アルバムを出すのは流行にのっかるようで恐かったけど、時間が経ったので彼女に捧げるアルバムを作る時だと感じたんだ」と語っている。インタビューの日付は残っていないが、たぶん60年の半ばなのだろう(アルバムのリリースは60年)。「ビリーに捧げられたマルの決定的な名盤!」と言われているが、レフト・アローンの録音がすでにあったので制作できた追悼アルバム。にもかかわらず、名盤的な扱いがされ、マルは、このアルバムを背負っていくことになった。

追記:中山康樹著『ジャズの名盤入門(講談社現代新書)』には、本作について以下のように解説している。

「1960年4月(日にちは不明)、マルはビリーと共作したものの一度も録音されることのなかった〈レフト・アローン〉をマクリーンとの共演という形で吹き込み、それをビリーへの追悼とする。このアルバムにマクリーンが加わった演奏が1曲しか収録されていない理由は、そこにある」。

1. Left Alone
2. Cat Walk
3. You Don't Know What Love Is
4. Minor Pulsation
5. Airegin
6. Mal Waldron Interview: The Way He Remembers Billy Holiday

Mal Waldron - piano
Jackie McLean - alto saxophone (track 1)
Julian Euell - bass
Al Dreares - drums

Recorded on February 24, 1959 in NYC.