木俣信 / ジャズは気楽な旋律

2014年4月15日発刊 平凡社新書 定価800円。木俣信(きまた まこと)という名前は、スイングジャーナルなどで何度も目にすることがあった。しかし、ジャズ・プロデューサーの立場として、アルバムのレビューを書くことは難しかったようだ。そんな木俣氏が本を執筆したことを知り、読んでみようと思った。サブタイトル『プロデューサーが出会った素顔の巨人たち』にも魅かれた。だが残念なことに、この本は木俣氏の仕事経歴を綴ったに過ぎない。以下は、『まえがき』より抜粋。

「永年ジャズに携わり、世界の数多くのミュージシャンたちとレコーディングという仕事を通して付き合ってきたぼくは、〈ジャズは難解〉という誤解を解きほぐし、〈ジャズってこんなに楽しい音楽なのか〉〈素晴らしい感動を与えてくれるのだ〉ということを、一人でも多くの人にわかっていただければ ― そんな思いでペンをとった」。つまり、超入門者向けの本なのである。

金本麻里 / ジェリコの戦い

金本麻里の前作With The Bop Bandに続き、CD制作協力会員(ジョニーズディスクファンクラブ)の一人として、あれこれと語ることはできないアルバムなのだ。だが、いやだからこそ、盛岡ジャズの喫茶『開運橋のジョニー』のオーナーであり、本作のプロデューサーである照井顕さんに届くかどうかは別にして、2点だけ語っておきたい。

まずは、ベースを何故に入れなかったのか。ボーカル、ピアノ、フルートという構成で、全体的に重心が浮いてしまった感じがする。残念ながら、熱い鼓動が伝わってこないのだ。やはり、底辺を支える楽器が必要だったのではないかと思ってしまう。そして、ジャケット。麻里さんの特徴を捉えているのは事実だが、前作のジャケットと比べてしまうと、ある種の威圧的な感じを受けてしまう。アルバムの内容は、ポップ的な要素を取り入れたジャズ。もう少し工夫して欲しかった。「ジェリコの戦い」をイメージしたジャケットなのかも知れないのだが…。照井さん、正直に書きました。

1. Joshua Fit The Battle Of Jericho
2. Love Is A Many Splendored Thing
3. A Lover's Concerto
4. Stardust
5. The Shadow Of Your Smile
6. Do You Know What It Means To Miss New Orleans
7. Almost Like Being In Love
8. Moon River
9. Over The Rainbow
10. It's All Right With Me
11. Nobody Knows The Trouble I've Seen
12. HOPE

金本麻里 - vocal
武藤晶子 - piano
小川恵理紗 - flute
照井顕 - producer

録音 2018年8月29日 / 北上さくらホール(中ホール)

ジャケットに記載されたCD制作協力会員リスト抜粋

Kenny Dorham / UNA MAS

音楽プロデューサーのマイケル・カスクーナは、このアルバムをライナーノーツで次のように評している(訳:和田政幸氏)。

「このアルバムはいろんな点で、ジャズの前進を促した作品である。まず、ドーハムがトランペッター兼作曲家としての見識を発揮して、ブラジリアン・サンバをとりあげたこと。優美なボサノバは、当時カクテル・ラウンジなどで流行しかけていたが、このサンバはそれとは対照的な音楽だ。〈中略〉『ウナ・マス』は発売と同時に、多くの人の心を捉えた。この曲の、不思議な魅力的なパルスにショックを受けた人たちは、この後の10年間、いくつもの新しいジャズ・スタイルを創造していく」。

絶賛である。確かに一つの変曲点にはなったと思う。しかしながら、それをバックで支えたのは、ハービー・ハンコックとトニー・ウィリアムス。本作の録音から1ヶ月後の1963年5月14日、この二人はマイルスのセッションに参加。マイルスは自叙伝でこう書いている。「新しいクインテットは、ものすごいバンドになるという自信が、オレにはあった。彼らはほんの二、三日間であれだけすごくなったんだから、二、三カ月後にはどうなっているんだろうかと、こみ上げてくる昂奮があった」。仮にドーハムが「ウナ・マス(もう1回!)」と二人に叫んでも、彼らはマイルスに引き抜かれてしまったのだ。

1. Una Mas (One More Time)
2. Straight Ahead
3. Sao Paolo
4. If Ever I Would Leave You

Kenny Dorham - trumpet
Joe Henderson - tenor saxophone
Herbie Hancock - piano
Butch Warren - double bass
Tony Williams - drums

Recorded on April 1, 1963 at Rudy Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey.