Bobby Hutcherson / Happenings

余韻が残るヴァイブの音と、鍵盤から叩きだされるピアノの音が、空気を凍らせるような緊張感を引き出す。「静」でもなく「動」でもない。「漂」という音のイメージ。ヴァイブによるMaiden Voyage(処女航海)は、まさしく漂っている感じだ。ハービー・ハンコックは、この曲をタイトルにしたアルバムを1965年3月に録音している。その時はフロント2管による演奏だったが、その約1年後の66年2月の本作での録音ではヴァイブで表現したいと思い、ハンコック自身が持ち込んだのだろう。それが的中して、オリジナル以上の出来栄えとなった。ちなみに、Maiden Voyage以外は全てボビー・ハッチャーソンの作品。

ラストのThe Omen(兆し)は完全不調和。ライナーノーツによると、途中でハッチャーソンはドラムを、ジョー・チェンバースはヴァイブを演奏しているそうだ。何の兆しを表現したかったのだろうか。ジャケットも逸品。演奏内容を見事に表現している。Happenings(事件)に遭遇した女性というより、やはりDrift(漂流)している感じなのだが…。

1. Aquarian Moon
2. Bouquet
3. Rojo
4. Maiden Voyage
5. Head Start
6. When You Are Near
7. The Omen

Bobby Hutcherson - vibraphone (tracks 1-6), marimba, drums (track 7)
Herbie Hancock - piano, box full of rocks (track 7)
Bob Cranshaw - bass
Joe Chambers - drums, marimba (track 7), triangle (tracks 2, 7), timpani (track 7)

Recorded on February 8, 1966 at Rudy Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey.

Bobby Hutcherson / Components

不思議なアルバム。ジャケットの写真は何を表現しようとしているのか。さらに、ボビー・ハッチャーソンが照れくさそうに笑っている。ジャケット以上に不思議なのが、収録曲の配置。LPで言えば、A面がハッチャーソン、B面がドラマーのジョー・チェンバースの作品を割り当てている。つまり、名義が入れ替わっているのと同じだ。しかも、録音は一日で終えている。

ブルーノート、というかプロデューサーのアルフレッド・ライオンが、このアルバムに持ち込もうとしたコンセプトが見えてこない。ハッチャーソンのヴィブラフォンの音色は、時に悲しく、時に躍動的。それが狙いだったら、タイトルとジャケットは、もっと工夫すべきだった。「Components(部品)」を提供するから、好きなように自分の中で組み立ててくれ、ということなのだろうか。

1. Components
2. Tranquillity
3. Little B's Poem
4. West 22nd Street Theme
5. Movement
6. Juba Dance
7. Air
8. Pastoral

Bobby Hutcherson - vibraphone, marimba
James Spaulding - alto saxophone, flute
Freddie Hubbard - trumpet
Herbie Hancock - piano
Ron Carter - bass
Joe Chambers - drums

Recorded on June 10, 1965 at Rudy Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey.

Bobby Hutcherson / Dialogue

安易に「衝撃的」のような言葉は使いたくないけれど、ボビー・ハッチャーソンのヴィブラフォンとマリンバを主役に置いたこのアルバムは、体内のヒューズが飛んでしまうような電気が流れる。バック(ピアノ、ベース、ドラム)とフロント(ヴィブラフォン、サックス、トランペット)という形態ではなく、アルバムタイトル通り6人による「対話」である。しかも、その対話はかなり謎めいている。発散するわけでなく、収束することもない。浮遊する感じ。

ハッチャーソンの初リーダーアルバムで、アンドリュー・ヒルの作品(トラック1, 3, 5, 6)とジョー・チェンバースの作品(トラック2, 4)で構成されている。プロデューサーのアルフレッド・ライオンがハッチャーソンのデビュー作を入念に企画したのだろう。ジャケットもアルバムのイメージ通りに作り込まれている。

1. Catta
2. Idle While
3. Les Noirs Marchant
4. Dialogue
5. Ghetto Lights
6. Jasper

Bobby Hutcherson - vibraphone, marimba (tracks 3,4,6)
Sam Rivers - tenor saxophone (tracks 1,6) soprano saxophone (track 5), bass clarinet (track 4), flute (tracks 2,3)
Freddie Hubbard - trumpet
Andrew Hill - piano
Richard Davis - double bass
Joe Chambers - drums

Recorded on April 3, 1965 at Rudy Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey.