秋吉敏子 / Insights

かつて、ジャズにおいては、人種差別や民族問題に向かい合うアルバムは少なくなかった。しかし、水俣病のような社会問題を取り上げたのは、このアルバムが唯一ではないだろうか。以下は、秋吉敏子自身とレナード・フェザーによる解説からの抜粋である。

「私達音楽家は無力で、社会機構を変える事は出来ない。と同時に、日本のみならず世界に存在している、公害病をもたらす様な社会状態を無視する事は出来ない。日本から離れて居る私は、数年前始めて水俣市周辺に起こった大惨事を知ったが、これを忘れてはならぬ、という感を、その後頭から追い払う事が出来なかった。私という無力な一音楽家に出来る事は、その事を記録して残す事である。長い間掛かって、私の温床から出来上った音楽、〈ミナマタ〉は、ジャズ音楽家であるが故に、ジャズ音楽語を通じてつづった私の社会記録である(秋吉敏子)」。

「〈ミナマタ〉は、鎮魂の想いが込められた、そして静けさ、陽気さ、不安感、荒涼感といった様々な相貌をあわせ備える、際だった衝撃力をもった作品である。そしてまた、この驚くべきオーケストラによってこれまでレコーディングされたいかなる演奏よりも、作曲者の天才とミュージシャンの稀な団結力を示すものである(レナード・フェザー、訳:川嶋文丸)」。

1. スタジオ・J - Studio J
2. トランジェンス - Transience
3. すみ絵 - Sumie
4. ミナマタ - Minamata
  平和な村 - Peaceful Villag
  繁栄とその結果 - Prosperity & Consequence
  終章 - Epilogue

trumpet: Steven Huffsteter, Bobby Shew, Mike Price, Richard Cooper on tracks 1-3, Jerry Hey on tracks 4
trombone: Bill Reichenbach, Charlie Loper, Britt Woodman, Phill Teele (bass)
saxophone: Dick Spencer (alto), Gary Foster (alto), Lew Tabackin (tenor, flute), Tom Peterson (tenor), Bill Perkins (baritone)
Peter Donald - drums
Don Baldwin - bass
秋吉敏子 Toshiko Akiyoshi - piano
観世寿夫 - 謡曲 (track 4)
亀井忠雄 - 大鼓 (track 4)
鵜澤速雄 - 小鼓 (track 4)
ミチル・マリアーノ Michiru Mariano - 歌 (track 4)
堅田啓輝 - 羯鼓 (tracks 1-3)

Recorded on June 22, 23 & 24, 1976 at RCA Studio "A", Hollywood, CA.

秋吉敏子 / KOGUN

秋吉敏子=ルー・タバキン・ビッグバンドのデビュー作。タイトル曲の「KOGUN(孤軍)」は当時ルバング島で発見された小野田少尉をモチーフにしたと言われている。CDのライナーノーツにそのことが書かれているかと思ったが、LP発売時と同じ解説で空振りに終わった。そこで、ネットで調べたところ、横濱JAZZ PROMENADEディレクターの柴田浩一氏のインタビュー記事を発見。取材は2012年6月7日。

柴田氏の「一貫して日本人を意識した作品を書かれていますが…」という発言にこう答えている。「私は日本という文化を背負っていて、昔から鼓の音が好きで使いたいなと頭の中にあった。そこにルバング島の小野田少尉さんが見つかって孤軍ができたんです。酷い評価を受けるかと思っていたら、売れてしまいびっくりしたんです」。日本人→鼓→小野田氏→孤軍ということだった。

出典 http://jazzpro.jp/archives/yjp2012/interview_2012

1. Elegy
2. Memory
3. Kogun
4. American Ballad
5. Henpecked Old Man

Bobby Shew, John Madrid, Don Rader, Mike Price, Richard Cooper - trumpet
Charlie Loper, Jim Sawyer, Britt Woodman - trombone
Phil Teele - bass trombone
Dick Spencer, Gary Foster - alto saxophone
Lew Tabackin - tenor saxophone, flute
Tom Peterson - tenor saxophone
Bill Perkins - bass
Gene Cherico - bass
Peter Donald - drums
Toshiko Akiyoshi - piano, conductor
Scott Elsworth - voice

Recorded on April 3 & 4, 1974 at Sage & Sand Studio Hollywood, CA.

秋吉敏子 / The TOSHIKO Trio

正確な録音データが残っていないが、1956年の録音であることは間違いない。自分は56年12月生まれなので、そのほんの少し前のことだったのだろう。以下は、本作の商品説明を若干改変。付け加えるとすれば、ラスト曲Softly, As In A Morning Sunriseのアレンジが斬新。65年前に凄いジャズをやっていた証拠だ。

「秋吉敏子の名を世界に広めた歴史的名盤、そして日本人として初めて〈ジャズの殿堂〉入りを果たした秋吉敏子の音楽生活の原点となる代表作。バド・パウエルを彷彿とさせる完成度の高い作品で、彼女のオリジナル6曲、そして〈蘇州の夜〉のソロピアノも収録されている。メンバーは、当時まだ無名だったベーシストのポール・チェンバース、ドラムにエド・シグペンというジャズ界のホープたちを牽引していく若き日の秋吉敏子の才能に世界中が驚いた。2006年にはジャズ界最高の名誉“アメリカン・ジャズ・マスター賞”を受賞」。端的によくまとめた文章だ。

1. Between Me And Myself
2. It Could Happen To You
3. 郷愁 (Nostalgia)
4.Homework
5. Manhattan Address
6. Sunday Afternoon
7. Blues For Toshiko
8. 蘇州の夜
9. Softly, As In A Morning Sunrise

秋吉敏子 / Toshiko Akiyoshi - piano
Paul Chambers - bass (except track 8)
Edmund Thigpen - drums (except track 8)

Recorded in 1956.