Miles Davis / Siesta

このアルバムが録音されたのは、1987年1月から2月。そして、リリースされたのは11月である。岩波洋三氏によるライナーノーツの日付も87年11月。ところが、ジャケット内にはThis album is dedicated to GIL EVANS The Masterとある。この一文からエバンスへの追悼アルバムであるとネットや雑誌に書かれている。例えば、文藝別冊『マイルス・デイビス 未来の音楽のための巨人』245ページには、「ギル・エバンス追悼作」とある。しかしながら、ギル・エバンスが他界したのは88年3月20日。つまり、ここでのdedicated toとは単純に「捧げる」だけの意味と解釈できる。

アルバム全体はスパニッシュ・サウンド。ギル・エバンスとの「スケッチ・オブ・スペイン」(1960年3月作)を思い出される。本アルバムには、アコースティック・ギターが2曲で使われていて非常に効果的なのだが、もっと多用して欲しかった。改めてマイルス自叙伝②を読むと、次の文章を見つけることができた。『ギル・エバンスが死んですぐに「シエスタ」が出た。「スケッチ・オブ・スペイン」に近い音楽だったから、「シエスタ」には〈ザ・マスター:ギル・エバンスに捧ぐ〉というクレジットを入れた』。これは、マイルスの記憶違い。エバンスの死を受けて、ジャケットを差し替えたということなのだ。

1. Lost In Madrid Part I
2. Siesta / Kitt's Kiss / Lost In Madrid Part II
3. Theme For Augustine / Wind / Seduction / Kiss
4. Submission
5. Lost In Madrid Part III
6. Conchita / Lament
7. Lost In Madrid Part IV / Rat Dance / The Call
8. Claire / Lost In Madrid Part V
9. Afterglow
10. Los Feliz

Miles Davis - trumpet
Marcus Miller - bass, bass clarinet, etc.
John Scofield - acoustic guitar (track 2)
Omar Hakim - drums (track 2)
Earl Klugh - classical guitar (track 8)
James Walker - flute (track 10)
Jason Miles - synthesizer programming

Recorded in January - February 1987 at Sigma Sound Studio, NYC and Amigos Studio, Hollywood.

Miles Davis / Tutu

デズモンド・ツツ司教が、2021年12月26日に90歳で他界した。「南アフリカのアパルトヘイト撤廃に向けた運動を率い、1984年にノーベル平和賞を受賞。86年、黒人として初めての南アフリカのキリスト教指導者の最高位に就任。大統領になったネルソン・マンデラ氏が率いるアフリカ民族会議が武装闘争を進めた一方、ツツ氏は非暴力を貫き、対話と相互理解による民主化を目指し続けた」とネット情報。そのツツ氏をタイトルにしたアルバム。89年秋に出版されたマイルス自叙伝には「ツツという名前を聞いた途端、うん、これだと思った。そして、Full Nelsonという曲はネルソン・マンデラに因んだものだ」と記されている。

2012年1月21日に死去した石岡瑛子氏によるプロデュースのジャケット。モノクロであり、マイルスやタイトルの文字が全く記載されていない。マイルスの「顔」が全てを語っているはずというのが、石岡氏のコンセプトだったのだろう。「マイルス」という日本語での4文字によって、自分は言わばジャズの虜になってしまった。しかしながら、その先にあったのはマイルスの眼光鋭い「顔」だったのだ。このアルバムには、マイルスから勝負を挑まれた音楽が詰まっている。

1. Tutu
2. Tomaas
3. Portia
4. Splatch
5. Backyard Ritual
6. Perfect Way
7. Don't Lose Your Mind
8. Full Nelson

Miles Davis - trumpet
Marcus Miller - bass guitars, guitar, synthesizers, drum machine programming, bass clarinet, soprano sax, other instruments
Jason Miles - synthesizer programming
Paulinho da Costa - percussion (tracks 1,3-5)
Adam Holzman - synthesizer solo (track 4)
Steve Reid - additional percussion (track 4)
George Duke - all except percussion, bass guitar, trumpet (track 5)
Omar Hakim - drums and percussion (track 2)
Bernard Wright - additional synthesizers (tracks 2,7)
Michael Urbaniak - electric violin (track 7)
Jabali Billy Hart - drums, bongos

Recorded in February 6 - March 25, 1986 in NYC and Los Angeles.

Miles Davis / Rubberband

2019年9月リリース。しかし、本作を知ったのは2021年の末。タイムリーに情報が自分に舞い込んでこなかったということは、いくらマイルスといえども、衝撃的なアルバムではなかったということだろう。本作を入手してからもう10回以上も聴いた。たしかにマイルスのトランペットは鳴っているものの、アルバム全体の雰囲気は自分にとってはポップスでしかなく、新鮮さを感じることもない。2017年、当時のプロデューサーが中心となって、1985年の音源に新たな音を被せて完成させたようだ。以下は、商品説明からの抜粋。

「1985年、マイルスは30年にも渡り所属していたコロンビアを離れ、新たにワーナーと契約し、世界中に衝撃を与えた。同年10月、ロサンゼルスにあるAmeraycan Studiosにてアルバム〈ラバーバンド〉のレコーディングを開始、マイルスはこの作品で、ファンクやソウルのグルーヴを大胆に取り入れ、急進的なサウンド・スタイルという方向性を打ち出した。しかし、最終的にこの作品は日の目を見ることなく、マイルスは新たな作品をレコーディング、今や歴史的名盤として知られる傑作〈Tutu〉をもって、移籍第一弾作品としてリリースする。結果、この〈ラバーバンド〉は30年以上もの間、そのまま誰にも聴かれることなく、誰にも触れられないままの状態となっていた」。マイルス自叙伝②を読んでも、本作のセッションに関しては一切触れられていない。勝手に音を被せたアルバムに、天国のマイルスは何を感じるだろうか。

1. Rubberband Of Life
2. This Is It
3. Paradise
4. So Emotional
5. Give It Up
6. Maze
7. Carnival Time
8. I Love What We Make Together
9. See I See
10. Echoes in Time / The Wrinkle
11. Rubberband

Miles Davis - trumpet, keyboards, synthesizers
Randy Hall - on "I Love What We Make Together", production on 1985 sessions
Lalah Hathaway - vocals on "So Emotional"
Ledisi - vocals on "Rubberband Of Life"
Michael Paulo - tenor saxophone, alto saxophone, flute
Mike Stern - lead guitar on "Rubberband"

Recorded in January 31 - February 4, 1985 at Easy Sound Studio, Copenhagen, Denmark.
Recorded in October 1985 - January 1986, at Studio Ameraycan Studios, Utopia Studios, The Village, Dot's Way Recorders.
Released on September 6, 2019.